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こんなことって

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 教室へぞろぞろとほとんどのやつらが戻ると、何故か俺が元に戻るところをみんなが観察するという状態になった。
 藤澤が化粧落としをする間、主に男が感心した声をあげる。
「男のニカに戻った」
「メイクなしでもかわいい」
 などと、おまえらもやってみろ、違う自分が見れるぞと思ったが、目の前のニコニコする藤澤を見て溜飲を下げる。

 化粧を落とし終わり、ヘアピンとエクステを取り、いよいよ着替えの段になっても中々見ている連中が散らない。
「おまえら……、俺は今から着替えるんだぞ」
 と言っても、
「OK。男らしく脱げ」
「ニカちゃんの生着替え観察です」
 言い張って聞かない。こいつらは……。
 言い合っても埒があかないので、さっさと着替える。
「はい、ニカちゃん」
 藤澤が俺の服を順に手渡してくれる。藤澤が俺の着替えを見てるのもどうかと思うんだけど、脱毛処理まで見られてるからもういまさらか。
「なんか藤澤、ニカの彼女みたいだな」
 周りにいたやつの一人が言う。
「最近仲よすぎだよな。付き合ってんの?」
 さらに別のやつが言う。
「違うよ」
 そんな仲になれればいいなとは夢想するけど、告白までにも至っていない状態でそんなこと言うなよな。
「あ、でも、藤澤はまんざらでもないんじゃねぇの?」
 まだその話題ではやし立てる。デリケートな問題に踏み込んでくるなって。徐々に行こうと思ってんのによ。ここで否定されても肯定されても、どちらにしてもつらいじゃねぇか。こういうとき、徹がいればうまく捌いてくれんのにどこ行ってんだ。
「え? うん」
 それに対し藤澤は普通に答える。何? うん?
「おー!? これはカップル誕生か?」
「告白? 告白か?」
 にわかに盛り上がる周囲のやつら。
「ニカ、どうすんだよ」
「これは盛り上がってまいりました」
 盛り上がってねえ。こんな状況でホントの答えなんて言える訳ないだろ。
「どうもしねえよ。そういう話は藤澤とするから、これ以上詮索すんな」
「ニカ、つまんねぇやつ」
「ノリが悪いぞ」
 非難してくる男どもに、
「俺はやりたくもない格好をして、ここまでおまえらのノリに付き合ってやったんだ。これ以上付き合ってられるか」
 事を荒立てるのは俺の流儀ではないがこんなことにノリで答えられるか。

「何やってんの?」
 ここで、ようやく徹がのんびりと入ってきた。
「瀬長。藤崎とニカのカップル成立」
 なに出来事をはしょってんだよ。全然違うだろ。
「違うっつーの」
「もう、着替え終わったんだろ。帰ろうぜ」
 俺の口調とセリフで大体の事態を察したのか、たいして興味もなさそうに帰路を促す。
「なんだよ、つまんねえな」
「もう十分、和の女装は堪能したろ? オカズにはすんなよ。それは俺だけの特権だからな」
 おまえ、よりにもよって藤澤もいる前でなんて言うことを言うんだ。収拾してくれと願ったがこんな離れ業なやり方じゃなくてもいいだろう。
 しかし、「お前もなー」とか「そういうのは秘密にしとけよ」とか男どもにはウケたようだ。
 徹。おまえの気遣いはうれしくないとは言わないが、俺に変なトラウマを植えつけるような発言はしてくれるな。

作品名:こんなことって 作家名:志木