こんなことって
結局、どうなったかというと、タイムでは三年のゴスロリを身にまとった先輩に負けてしまったが、その他の審査ポイントが加味されて一位になってしまった。
自分から勝負に出たとはいえ、大変に不本意ではあるが、藤澤たちが喜んでいるのでプラスマイナスゼロで、ちょっとだけプラス寄り。
ちなみに、ケガをしてタイムが出なかった立花が、審査ポイントだけで三位に食い込んでしまった。実に意味不明だ。この行事は「体育」祭ではないのかと思ったが、この盛り上がりようを見ると「祭」の方に主眼が置かれているのだろうと思うしかない。
出場競技のあとの、男装百メートルや騎馬戦、リレー走で思いのほか、観戦に盛り上がってしまって、格好のことなど忘れかけていたとは、あれだけ嫌がっていた割りには情けない話だ。
「やったね。ニカちゃん。一位!」
もうすでに観戦中から、藤澤は俺の横でずっとつかず離れずの位置にいる。そしてたまに抱きついてくる勢いでくっついてくる。今もそのような感じだ。
しかも、他の女子にも気軽に抱きつかれる。普通ならなんてうらやましいと思うところだけど、これは男同士が気軽に抱きつくのと同じだろうな……と思うと、なんか虚しくなってくる。まぁ、本音を言えば、ちょっとは嬉しいんだけど、こんなことは藤澤に知られるわけにはいかない。
「やった!って喜べばいいのか?」
「そうそう。素直に喜ぼう!」
最高にいい笑顔で喜んでくれるもんだから、こっちも笑顔になるしかない。
「この格好じゃなければな……」
「でも、ちょっとはうれしいでしょ?」
「まぁな」
盛り上がるクラスのやつらを尻目に、競技終了後の表彰式を結局この格好のまま向えることになってしまった。
「ケガ、大丈夫か?」
表彰台の横で、もちろん女装のままの立花に話しかける。
「うん。たいしたことない。一位おめでとう」
「……まぁ、サンキュー。おまえも記録なしで三位とかすげぇじゃん」
「ふふ。ありがとう」
この立花の口調にはもう慣れてしまった。姿形に違和感がないからかもしれないが。
「徹とさ、大谷のこと話してたんだけど、それだけ走れるなら陸上部に入ればいいのにって」
「ああ……、そんなことか……。俺、運動部って性に合わないからな」
「だから、一匹狼っぽいんだね」
「は?」
一匹狼とは、なんかカッコよさ気だけど、要はぼっち好きってことじゃないのか。俺は一人が好きなわけじゃない。
「女子にも言われてるよ。かわいいのにかっこいいってさ」
かわいいのにかっこいい。復唱してみる。それは共存できるものなのか。よくわからない感覚だ。
「私、嫉妬しちゃうな」
訝しげな顔の俺に、重ねられた言葉。嫉妬ってなんだ? 女装してる俺に嫉妬? それとも普段からそんなこと思われてるのか?
「なんだ、それ。立花も十分かわいいから、とでも言えば満足か?」
「うん。大谷にそう言ってもらえたらちょっと満足」
よくわからない。立花の考えは。
競技ごとに表彰が順に行われ、女装百メートルもお立ち台で表彰が行われる。
「ニカちゃーん!かわいい!」
「かわいいぞ!ニカ」
「もっとサービスしろ!ニカ」
クラスメートだけではなく、それ以外からも何やらはやし立てる声が聞こえるが、おまえらにかわいい言われるためにやってんじゃねえよと心の中で毒づきながら、外面は崩さない。
お立ち台に登って賞状を受け取る。これは賞状の中でも、ある意味なかなか貰うことができないものだろうな。こんなの部屋に飾ったりできないけど。
ようやくやっと終わった……。これで、元の姿に戻ることができる。
でも、やってみてわかったけど、これも服には違いないわけで、実用上問題があるとか、着心地が悪いとかそんなことはない。古代にはそもそも男女で服装に違いがあったとは聞かない。文化的に男女で装いに変化が生じた瞬間から意味をもったんだろう。そう思うと服装のアイデンティティなんて曖昧なものだなと思う。だからといってスカート姿になりたいかといえば、そんなことはないけど。