こんなことって
「和。一位じゃん」
肩に手を置いてきて話しかけてくるのは徹だった。観戦側からわざわざここまで来たのか。
「徹か……」
「クラスのやつら盛り上がってたぜ」
「それを言うためだけにここまで来たのか?」
「いや、立花は平気かなと」
俺の肩ごしに治療を受けている立花を見やりながら軽く手を挙げる徹。
それに対して立花も軽く手を挙げて応える。ただその手の挙げ方が、女の子のそれであるのだが。
立花と徹はツレだったな。俺よりも長い。
「大丈夫みたいだけど」
「そうみたいだな」
そういいながら、処置が終わり、その場に留まっている立花に近寄って何やら話している。
話しながら、二人とも俺の方をチラチラと見てくるのが気になるが、いちいち気にするのも癪なので藤澤たちを探そうとしたら、
「ニカちゃーん」
と言いながら、こっちに向かってくる藤澤と女装実行委員会の面々が見えた。
「おう」
女子らが来る方へ俺も移動しながら答える。
「今のところトップだね」
「そうなん?」
タイムは見てなかったが、まだ三年が残っているのでわからない。
「かなり速かったもん。女子の中だったら断トツなのにね」
そりゃ、女子と比べられてもな……。
「それよりさ、これ、早く元に戻りたいんだけど」
自分の服装を指さしながら、藤澤に言う。
「閉会までそのままでいいのに……」
さらりと恐ろしいことを口にする藤澤。
「何言ってるんだよ。一刻も早く元のカッコに戻りたい」
「こんなにかわいいのにねー」
「ねー」
女装実行委員の二人が声を合わせて言う。
このままでは本当にこの格好のまま閉会までいることになりそうだが、足元のスースー具合も段々と慣れてきたし、自分の姿を鏡で見ることさえしなければ耐えられそうな気はする。
「入賞したらお立ち台だし、その格好の方がいいじゃない」
藤澤が俺の近くまで回り込んできてのダメ押し。女の格好をしているからなのか、腕を絡ませてくる。これは……どういうつもりだ、藤澤。仲よくなったからって気軽にそういうことをしていいとでも思っているのか。少し胸が触れてやしませんか。
「おい……胸当たってる」
俺は戸惑いながら言う。顔は赤くなってないと思うけど、触れられている場所が熱い。
「あ、ゴメン」
少し離れたが、あいかわらず腕には触れたままだ。
「ニカちゃん、この格好だと気軽に触れるから……」
俺、どんだけ女子と同じに見られてるんだ。客観的にみれば、どう見ても女子には見えないと思う。喉仏も出てるし、腕も筋張ってる。だがこれは俺から見ての客観性だ。もしかしたら他のやつにはそう見えていないのかもしれない。
「ニカちゃんと明里お似合いだよ」
「写メ撮ってあげる」
俺は藤澤の手を振りほどくわけにもいかず(それ自体は嫌なわけがない)、写メを撮られてしまった。
「やった。メールで送って」
この格好じゃなければ、俺にも送ってくれと言いそうになるがさすがにそれを言い出すのにはすべての関係があやふやに思われた。
女装をしている自分。それを好意を寄せている女子に何やら好意的に受け止められて、周りからも持て囃される。高々、服装が変わるだけでこんなに変わるなどというのは、人がなぜ服を着るのかという理由づけと、擬態という言葉を連想させた。
「ニカちゃんもいる?」
「いらない」
ここで「いる」と答えるのは自分のこの微妙な変化を受け入れることになる気がしてそう答えた。
「そっか。ニカちゃん、このカッコ好きじゃないんだもんね」
気を悪くさせたかと思ったが、普通に納得したみたいだ。
嫌悪して気分を悪くする程には嫌というわけでもないんだけど。肌の露出があるわけでもなし。
「あ、明里。そろそろ三年も終わるよ」
その言葉にグラウンドを見やる。
確かにそろそろ終わりそうだ。結局俺は自分のタイムも知らないし、今の順位がどうなっているのかも知らない。
「審査発表まだかな」
楽しみそうに告げる藤澤に同意しそうになる自分につっこみを入れて、
「とりあえず早く終わってくれ」
と、ウソではないが本音でもない本音を口に出す。