小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」
南 総太郎
南 総太郎
novelistID. 32770
新規ユーザー登録
E-MAIL
PASSWORD
次回から自動でログイン

 

作品詳細に戻る

 

黄金の秘峰 下巻

INDEX|9ページ/17ページ|

次のページ前のページ
 

(吹き矢か!それにしても長い。長ければ命中率も高い筈。それに、矢先には当然毒か何かが塗ってあろう。どうしても避けねばならない。生憎今日はガスっていないので、男も外すまい)
しゅっ、と言う音と共に矢が飛んで来た。
しかし、譲次の体の回転が一瞬速かった。
矢は空を切って後方へ飛んで行った。
男はしまったと言う表情をした。
二の矢を吹くには間が無かった。
既に譲次は男を目掛けて雪上をダッシュしていた。
次の瞬間強烈な蹴りを男の下腹に食い込ませた。
ぐふっ、と言う呻き声をあげ男は後方に仰け反った。
すかさず男の両襟首を掴むと、譲次は締め技に入った。
赤く膨れ上がった相手の顔を見て、一瞬譲次の手が緩んだ。
男はその隙を逃さず譲次から飛び退いたが、運悪く崖際だった為、
ずるずるっと落ちかける。
積雪のため、崖際であることに気付かなかったようだ。
譲次は一瞬迷ったが、男に近づくと其の手をしっかり握り、引き
ずり上げた。
男は荒い息をしながら俯いている。
折角の付け髭も、譲次の蹴りを食らった衝撃でどこかへすっ飛ん
でしまっている。
「あんた、宗田議員の秘書だろ。梶原とか言ったな!」
譲次は自分が撮った写真に写っていた男を今やっと思い出したの
だった。
兄幸一が電話の向こうで、この男の名を言っていた。
名を言われて梶原は観念した。
「あんた、多田健一郎をここで殺したな!」
「はあ」
梶原は力無くそう答えた。
それを聞いた譲次は、
(健さん、やっと犯人を捕まえたよ!)
胸の内で叫んだ。
曇天の空は暗く、又雪がちらつき始めている。
崖下から一陣の風が吹き上げて来た。
冷たい筈なのに気のせいか暖かく感じられた。
(きっと健さんが礼を言っているのだろう)
譲次はそう思った。
うな垂れる梶原を連れて譲次は下山した。
 
所轄のN署は困惑した。
既に事故死として処理済の多田健一郎が、実は他殺であったとの
連絡を幸一から貰い、山田刑事課長は驚いた。
「おい、小松、そりゃ間違いないのかね?」
「はい、本人がそう言っておりますので」
「うーん、そうか・・・わかった。そいつの身柄は?」
「はい、弟に対する殺人未遂の場所が、金峰の「千代の吹き上げ」、つまり、N署の所轄地域ですので、課長のお手を煩わせますが」
「エッ、多田健一郎の白骨死体発見と同じ場所かね?」
「そうなんです」
「判った。しかし、ホシが上がっていちゃ、捜査本部の設置は必要ないな。本部の方からどなたも御出でにはならずに済むわけだ」
「そういう事になります」
 捜査本部を置くとなると、時には県警本部の刑事部長クラスが名ばかりとは言え本部長となり、それに本部からの応援者が加われば、所轄署による昼夜のもてなしも大変なものになり、頭痛の種だということを、幸一も承知している。
「しかし、小松。本件はお前の方が色々知っているだろうから、応援を頼むよ」
「何か、理由を付けて、そちらへ参ります」
「よし、助かった。恩に着るよ」
 
山田課長自らの梶原庄造に対する取調べが始まった。
幸一から予備知識は得ているが、幸一も一応同室した。
先ずは、本籍、住所、氏名その他の身分関係を聞いた。
続いて取り調べの核心である被疑事実について質問する。
「五年前、多田健一郎を「千代の吹き上げ」で殺害したのはあんた
かね?」
「はい、其の通りです」
「どうやって、多田を山の上まで誘い出したのかね?」
「他にも莫大な埋蔵金があるらしいので、場所を教えると言って」
「そんな話を多田は信じたのかね?」
「あの頃の多田は十二億のカネを得て、すっかり金に狂ってしまっ
ていたようです。簡単に山へ着いて来ました」
「どうやって殺害したのかね?」
「殺す気はなかったのですが、はずみで崖下に突き落としてしまっ
たのです」
「小松譲次を狙った吹き矢には痺れ薬の類のものが塗ってあったが、
どこで手に入れたもんかね?」
「先年、知り合いからアマゾン土産にと貰ったものです」
「それを多田に使ったのではないかね?」
「いいえ、吹き矢など使っていません。あの時は、話が拗れてしま
って」
「どんな話かね?」
「柳沢峠で発掘した、彼の取り分のせめて半分の六億円が欲しかっ
たのです。当時私は彼に渡す十二億円を預かっていました」
「宗田家のあんたの部屋を調べたが、六億円の現金が見付かった。
残りの六億円はどうしたのかね?」
「甲武建設の駒井専務に脅されて取られました」
「脅されたとは?」
「私の多田殺害を知って脅迫してきたのです。警察に知られたくな
ければ、六億よこせと」
「何故駒井はあんたの仕業と分かったのかね?」
「私が多田の分を預かった時から様子を見ていたようで、多田の失
踪事件後すぐに脅してきたのです。或いはハッタリだったのかも知
れません」
「ところで、多田殺害はあんた一人の犯行かね。それとも、誰か一
緒に計画したり実行したりしているのかね?」
「いいえ、私一人でやった事です」
「間違いないね」
「はい、ありません」
「宗田家に居候していたと言うことは、宗田議員もこのことは承知
済みではないのかね?」
「いいえ、先生には全く関係ありません」
「しかし、埋蔵金の三分の一は議員も懐にしているのだから、全く
あんたの行為を関知していなかったとは思えないが。若しかして、
六億円は駒井ではなく、宗田議員に取られたんじゃないのかね?」
「とんでもありません。先生はそんな方ではありません」
「今、あんたは自分のやったこと、つまり多田健一郎を殺害しカネ
を横取りしたことについて、どう思っているかね?」
「先刻、「千代の吹き上げ」ですんでの処を小松さんに助けられて
命の大事なことを知りました。多田さんには大変申し訳ないことを
したと反省しております」
「そりゃ、本当かね。口から出任せじゃないのかね?」
「いいえ、心底から思っております」
「ところで、十五年ほど前、健一郎の父親、惣吉が矢張り山で行方
不明になっているんだが、あんたがやったんじゃないのかね?」
「いいえ、私じゃありません。私は全く知りません」
「間違いないね?」
「はい」
「ところで、小松譲次を何故殺そうとしたのかね?」
「いいえ、殺す気はありませんでした」
「石を落としたり、吹き矢を吹いたりしたのは、何故かね?」
「山の探索を止めさせたくて」
「何故探索がいけないのかね?」
「・・・」
「言えないというのかね?」
「はい」
「じゃ、どのようにして小松の探索を知ったのかね?」
「由良の爺さんから偶然聞いたのがキッカケです」
「由良とは誰かね?」
「私がいつも宿泊する増富温泉の或る旅館の従業員の由良俊次とい
う年寄りです」
「その由良が何と言ったのかね?」
「・・・」
「梶原!お前が黙っていても、我々が由良に聞けば直ぐ分かること
だぞ。言ってしまえよ」
「小松さんが我々の埋蔵金を探しているらしいと聞いたからです」
「埋蔵金?そうか、埋蔵金の在り処の探索か。ところで、我々と言
うからには、あんたの他にも誰か仲間が居るということだね。それ
は誰かね?」
「あっ、言い間違いです。誰もいません」
「あんた、嘘を付いてるね。誰を庇っているのかね?」
「いえ、誰も庇っていません」
作品名:黄金の秘峰 下巻 作家名:南 総太郎