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南 総太郎
南 総太郎
novelistID. 32770
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黄金の秘峰 下巻

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「そうか。そりゃひどい話だ。それで、堀田を殺ろうと考えたのは
誰かな。あんたかな、それとも三人で一緒に計画したのかな?」
「三人で練ったのです。仲間入りするについて、温泉にでも入って
文字通り裸の付き合いを始めよう、とか言って堀田を誘ったら、の
このこ付いて来たんです」
「そうか。道具は何を使った?」
「出刃包丁です」
「それ、どこに捨てた?」
「信州峠の林道脇です」
「死体の周辺の雪の中も探したが何も見当たらなかったがな?」
「一本づつ投げました。かなり遠くまで飛んでます」
「おう、そうか。もう一遍探してみよう。ところで、その出刃は何
処で手に入れたのかな?」
「甲府市内の金物屋で三本買いました」
「店覚えてる?」
「はい」
「じゃ後で詳しく教えてくれよな?」
「はい」
「一寸待っててな」
山田は取調室を出ると、県警本部に電話した。
「おーい、小松はいるか?」
「はい、一寸お待ち下さい」
「はい、小松です。いつもお世話になってます。何でしょうか?」
「おお、小松か。面白いこと聞いたぞ」
「面白い事?何でしょう?」                        
「森山章夫殺しの犯人は青木組の青木準次、この前香港で浮いてた
奴、あいつだったんだ。其の黒幕が何と駒井文治。こいつも昇仙峡
で死んじゃったけどな。今、堀田勝弥を殺ったあんちゃんを調べ中
なんだが、そんな副産物が出てきたので、急いであんたに伝えたく
てな」
「これは、これは。わざわざお電話いただいて本当に有難う御座い
ます。実は、森山殺しの件で堀田を締め上げよう思っていた矢先に
死体で見付かったと聞いて驚いていたんです。それで堀田をやった
のは、そのあんちゃん一人でですか?」
「いや、若いあんちゃん達三人での共同正犯ってところかな。なん
でも、青木が駒井の騙し討ちに遭った仕返しとか言ってるがね」  
「ほう、青木も良い所があったようですね?」          
「なかなか子分思いの親分だったようだが、人が良いと言うか、駒
井みたいな男をまともに信用しちまったのが命取りになったようだ
な」
「なるほどね」
「ま、そんな処だ。取調べ中なんでな。じゃ、電話を切るよ」
「有難う御座います。今度お礼に一献傾けなくちゃ」       
「なーに、無理言ってんだよ。強い酒でもないくせに!」
「それを言われると弱いんですが」
「ま、其の内に押しかけるよ」                 
「いつでも、お待ちしております」
「じゃな」
「失礼します」
幸一は電話に深々と頭を下げた。               
森山章夫の死が他殺によるものと判っていながら犯人の割り出し
に手間取っていた。
まさか、こんな形で急転直下事件が解決つくとは想像もしていな
かった。
しかし、あの青酸カリは誰が仕掛けたものか未だ判っていない。
只、青木の森山殺しが駒井の依頼によるものだと判明した以上、
青酸カリは矢張り駒井が用意したものと考えるべきか?
仮にそうなら、駒井と言う男は狡賢い様に見えて、かなり間抜け
だと言うことになる。自分の仕掛けを放置して、その罠に自ら嵌った訳だから。
天罰とも考えられようが、警察官としてそんな非科学的な結論で
締めくくる訳にも行かないと思う。

譲次は帰途の電車の中でも「やままたやまのやまおくの」を繰り
返していた。
時折、声が出そうなって慌てて、周囲を見回した。
人に聞かれたら、頭がおかしのかと思われかねない。
「くがねのやまはひとをくい」の意味だが、「くがね」とは、古語
辞典を引くと、「黄金」(こがね)に同じとある。
「黄金の山」が人を食うとは?
 山が人を食う筈はないので、これは比喩というか、表現の一つの方法であろうから、必ずしも「食うこと」即ち、「口で食べる」という意味とは限らない。
仮に山で人が遭難死しても、こうした表現は使われるだろう。
譲次は、「黄金の山」と「遭難死」から連想されるものを思い浮
かべる内に、「金峰山」に行き着いた。
「千代の吹き上げ」という難所を持つ金峰山こそ「くがねのやまは
ひとをくい」に相応しい言葉だと思った。
次は、「ほとけのいわはくがねくう」である。
「ほとけのいわ」は文字通りの岩があるのかどうか?
地図上には、こんな名前の岩はない。
「くがねくう」とは「黄金を食う」だから、「仏の岩が黄金を食
う」ということだが、岩が黄金を食う訳がないから、これも比喩に
過ぎず、実際は岩の下にでも納まっている、という意味だろう。
 さて、「ささにくがねがさくときは」は、「笹に黄金が咲く時
は」だろうが、黄金の花は現実的でないので、黄色位に解すれば、
六十年に一回咲くと言われる笹、竹などの花は黄色であり、まあま
あ頷ける。
「でいこくさまのかみをくい」が極めて解釈困難である。
「でいこくさま」は「大黒様」だろう。
「かみをくい」は、「髪を食い」と「紙を食い」の二様の解釈が
可能だが、これをどちらかに決めずに、両方に掛る言葉と捉えるこ
とも出来よう。
問題は「大黒様」だが、由良爺さんの話に出て来る「大黒柱」と
考えたら、どうなるか?
「大黒様」なら「髪」でも、「大黒柱」なら「紙」が適当だろう。
従って、このフレーズは「大黒柱の紙を食い」となり、「紙を食
い」は、「食う」だけでなく、「紙」に書かれた内容を十分理解し、
且つ秘密保持の為、紙を飲み込み腹の中へ納めてしまえ、と解釈出
来る。
最後の「ほとけのくがねぬしがくえ」は、前述の「仏の岩」の黄
金を「ぬし」つまり「あなたが」が「食え」つまり、「あなたのものにしろ」となろう。
全体を纏めると、

「山奥の金峰山の辺りの仏の岩には黄金が隠してある。六十年も経
ったら大黒柱の紙を見てその黄金をあなたのものにしろ」

と言ったところか!

譲次が既に解読済みの、あの掛け軸に書き込まれた謎の和歌は、
巨額の埋蔵金の在り処を「黄金色に輝く岩」という所まで導いてく
れたが、この小松家に伝わる古謠は「仏の岩」とまで教えてくれた。
 いずれの歌=謠も「後は自分で考えろ」とでも言うのだろうか。
 つまり、謎はまだ続行しているというのか?
 
これ等二つのヒントを合体すれば「黄金色に輝く仏の岩」となる。

ここまでヒントを貰っても判らないのは、謎を解こうとする側の
IQに問題があるのだろうか?
武田信玄は腹を抱えて大笑いしているかも。
快川紹喜もせせら笑っていることだろう。
彼等との知恵比べにガップリ四つに取っ組んだ筈の譲次は何だか
顔が赤くなって来る思いだった。
兎に角、何が何でも「黄金色に輝く仏の岩」を捜し出さねば男が
廃ると思った。
其の『黄金の秘宝、否、秘峰』とでも呼ぶべき、岩峰の下にこそ
武田信玄が自国の万が一の為に隠匿した時価数千億円にも上る甲州金が四百年に亘りひっそりと眠っているのであるから。


終章                               

平成十七年(二〇〇五年)
譲次は金峰山の山頂に立っている。
家族揃ってご来光を拝もうとの計画を立てたのは譲次自身だった
が、これほど辛いものとは予想していなかった。
作品名:黄金の秘峰 下巻 作家名:南 総太郎