終わらない僕ら
【4】 YUKIYA
言えた。ちゃんと笑顔で言えた・・・と思う。
驚かせてしまっただろうか。不審に感じただろうか。それでも構わない。少しだけ楽になれたから。
だけどダメだ。まだ胸が苦しい―――。
教室へ戻りかけた体を翻し、僕は屋上への階段を駆け上がっていた。
重く冷たいドアを押し開けると、爽やかな風が流れ込んできて、僕は思わず目を細める。
見る限り、屋上には誰もいないようだ。僕は屋上に出ると、ドアの前にへたりと座り込んだ。こうしてドアを押さえていれば、誰かが来たらすぐに分かる。一人になりたかった。一人で、考えたかった。
梅雨が明け、もうすぐ夏だ。夕方にも関わらず、空はまだ青く明るい。雲ひとつなく、どこまでも澄んでいて、ずっと見上げていると、まるで自分自身が青空の中に浮かんでいるようだ。そんな不思議な感覚に包まれながら、静かに目を閉じる。
僕はずっと要に甘えていたのだと思う。要の存在が当たり前になっていた。
(でも、違うんだ・・・)
これまで僕は、要の意思をないがしろにしていたのではないだろうか? 不安が湧き上がる。
要はいつも傍にいてくれた。それこそ僕の保護者か兄弟、恋人のように。けれど、それは僕が望んでいたからであって、もしかしたら彼はずっと我慢していたのかもしれない。要は優しくて、僕の味方であり、僕を尊重してくたけれど、それじゃあ僕は、彼の為に何かしてあげたことはあっただろうか・・・。
いつも一方的だったような気がする。居心地が良くて考えもしなかったけれど、僕はいつも、要を束縛していたのではないだろうか―――?
「サイテーだ」
声に出して己をなじる。恥ずかしい。依存して、苦しめて、気付きもしなかったなんて。
「・・・かなめ・・・」
名前で呼ぶようになったのはいつからだろう。思い出せない。でも、一番多く呼んでいる名前だということは確かだ。
「・・・要・・・」
もう一度呼んでみる。また鼻の奥がツンとなった。涙が込み上げる。
どうせここには誰もいない。誰も見ていない。
涙が一粒零れた。もう一粒、二粒。僕は涙を拭うこともせず、ドアにもたれ、泣き続けた。
彼女なんていらないと思っていた。誰かを好きになって、ドキドキした経験もなかった。まだ自分には、そういう出逢いが巡ってきていないだけなのだと思っていた。
でもそうじゃなかった。常に満たされていたから気が付かなかっただけだ。だって、一番傍にいて欲しい一番好きな相手は、いつも隣にいたのだから―――。
けれどもう遅い。いや、たとえもっと早くにこの気持ちを認識していたとしても、状況は変わらない。要に「好きだ」なんて言えるわけないし、それによって彼を失うことにも耐えられない。
永遠に想いを伝えることも、成就することもない、儚い恋。
忘れられるだろうか。また新たに、誰かを好きになれるだろうか。
そして、要の友人として傍に居続けることは、果たしてお互いの為に正しい選択なのだろうか・・・。
(どうすればいい・・・?)
考えよう。自分の欲を捨てて、要にとって、最良の道を―――。