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城咲らんる
城咲らんる
novelistID. 32793
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終わらない僕ら

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【9】 KANAME



『真中君も・・・御堂君と同じ気持ちだと思う』
 ハンバーガーショップの喧騒の中、宮野が消え入りそうな声で呟いた言葉が、あれからずっと脳裏を漂っていた。
(同じ気持ち? そんなの有り得ない)
 そう思っていた。雪弥に会うまでは―――。

 カーテンの引かれた雪弥の部屋は薄暗かった。
 「できない!」そう叫んで再び布団で顔を隠してしまった雪弥は、どうやら泣いているようだ。
 宮野と別れた後、半信半疑でここへ来た。いや、ほとんど信じてはいなかった。だけど・・・。
 雪弥の様子がいつもと違うことは明らかで、その原因が紛れもなく俺自身であるということも、間違いはないようだ。
 ・・・期待していいのだろうか。宮野のあの言葉の意味は、そういう事なのだろうか・・・。
 俺は椅子から立ち上がると、雪弥のベッドに腰を下ろした。その気配に気付いたのか、布団の中で雪弥がビクッと体を強張らせる。でもすぐにまたすすり泣く声が聞こえてきて、俺は布団越しに雪弥の頭をそっと撫でた。
 日常の中でふざけて雪弥の体に触れる時も、どこか緊張し、湧き上がる邪な感情に罪悪感を募らせていた。今はただ、素直な感情で触れる。
 胸が張り裂けそうなほどに愛おしい・・・。
「宮野に『俺の事よろしく』って挨拶したんだって? 彼女気にしてた。ユキが泣きそうな顔してたって。―――ねぇ、もしかして、ユキは俺の事・・・」
「好き?」と言い終わるよりも先に、雪弥の小さな声が耳に届いた。
「ごめん・・・ごめん、要・・・」
「何で謝るの?」
「だって、友達なのにこんな・・・。でも、どうしようもなくて・・・」
 雪弥がモゾモゾと布団から顔を覗かせた。暗がりだけど分かる。彼の目は、泣きはらして赤くなっているだろう。
 泣きながら「ごめん」を繰り返す雪弥の頬に手を伸ばす。柔らかい肌と涙の感触。
 こんな風にずっと触れたいと思っていた。
「要、どうしたらいい? オレ、要にこれ以上迷惑掛けたくない・・・でも好きなんだ・・・」
 おそらく彼自身収拾がつかなくなっているのだろう。自分のせいで雪弥は苦悩しているというのに、俺はつい笑ってしまった。お互いあまりにも鈍感過ぎる。報われるはずがないと決め付けて、現実を見ようともしなかった。想いは同じだったというのに。
「・・・それ本気? 俺が何年も悩んで胸にしまっていたことを、ユキはずいぶんと簡単に口にしちゃったね」
 嬉しくてついいじめたくなる。すると、雪弥は頬を包んでいた俺の右手を強く掴んで反論した。
「オレだって悩んだよ! ここ最近悩みすぎてハゲるんじゃないかと思うくらい悩んだ!! たぶん一生分悩んだ!! ・・・って、えっ!?」
 雪弥がやっと状況を理解したようだ。潤んだ瞳をしばたかせている。
「要・・・も?」
 俺は自由な左手をベッドについて、雪弥の顔を真上から覗き込んだ。ゆっくりと顔を近付け、耳元で囁く。
「うん、ユキが好き。たぶんユキよりずーっと前から・・・」
「・・・え、それじゃあ宮野さんは?」
「宮野は俺の気持ち知ってるんだ。俺、ユキの事諦めようとしてて、彼女に協力してもらってた」
 雪弥がゆっくりと体を起こして口を開いた。
「でも、宮野さんは要の事、好きなんだよね・・・?」
 雪弥が言わんとしている事にハッとする。そうだ。宮野は俺が雪弥の事を諦められるよう協力してくれていた。それなのに、雪弥も俺と同じ気持ちでいてくれたということは、もう宮野の協力は必要がなくなったということで・・・。宮野と恋人でいることも、雪弥を諦めた時に、俺から宮野に告白するという約束も、果たせなくなるということなのだ。
『真中君も・・・御堂君と同じ気持ちだと思う』
 ひどく寂しそうな宮野の様子を思い出す。胸が軋んだ。彼女がなかなか切り出せないでいた心境に、今更ながらに気付く。
「・・・オレ、要と宮野さんの邪魔しちゃった・・・。やっぱり言わなきゃ良かった」
 雪弥が肩を落としてうな垂れる。俺は、俺は・・・安易に宮野を巻き込み、傷付けてしまったことを、激しく後悔していた。腕時計を見ると、もうすぐ7時になろうとしていた。まだそんなに遅い時間じゃない。彼女に会わなければ。
 俺は俯く雪弥の顎を掴み上向かせると、軽く口づけをした。突然のことに呆気に取られている雪弥の頭にポンと手を置き、立ち上がる。
「ま、とにかく元気そうで良かった。明日からは学校来れそうだな。俺、宮野に会ってちゃんと話して来るから帰るな」
「要っ!」
「・・・ん?」
「宮野さん、大丈夫・・・なわけないよね・・・。どうしよう・・・」
 さっきまでキスで硬直していたのに、もう宮野の心配をしている辺りが雪弥らしい。確かに俺も彼女が気掛かりだった。会ってどう切り出せばいいのか、今も考えあぐねている。けれど、きちんと話さなければならない。
「これは俺が招いたことだから、俺がちゃんと話して、責任をとる。ユキは心配するな。それじゃ、明日学校でな」

 雪弥の家を出た俺は、宮野のケータイに電話をかけたが繋がらなかった。メールで『今から会いたい』と送信すると、『今日はダメ。明日放課後に』と返事が来た。
『分かった。それじゃあ明日放課後に。おやすみ』
 メールが送信されたことを確認すると、俺はケータイを閉じ、ため息をついた。夜風が頬に絡みつく。
 雪弥も俺を好きでいてくれた。予想だにしない展開に、本来ならばその事実にゆっくりと浸りたい所だが、宮野の心情を考えると、気分は重く沈み込む。
 明日、宮野にどう伝えればいいだろう。当人たちが気付いていなかっただけで、ちゃっかり両想いだったなんて、あまりに間抜けすぎる。
(とにかく明日、きちんと話さなければ・・・)
 ケータイをズボンのポケットにしまい、俺は複雑な心境のまま、家路についた。


作品名:終わらない僕ら 作家名:城咲らんる