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城咲らんる
城咲らんる
novelistID. 32793
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終わらない僕ら

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【10】 AKARI



 午後7時過ぎに御堂君から着信があった。着信を伝え振動する携帯は私の手の中。けれど、電話には出なかった。ほどなくしてメールが届いた。『今から会いたい』というメールだったが、私は『明日の放課後に』と返事をした。
 御堂君と別れ、帰宅した私は、制服のまま部屋のベッドに横になっていた。何もやる気が起きない。着替えも、勉強も、泣くことも。ただただ無気力だった。ため息だけが幾度となく零れる。
『真中君も・・・御堂君と同じ気持ちだと思う』
 御堂君にそう告げた。本当は、もっと早くに伝えなければならなかったのに、私は彼との日々が終わってしまうのが怖くて、なかなか言い出せなかった。
 真中君と廊下で言葉を交わしたあの日から、学校で彼らが一緒にいる姿を極端に見なくなった。時々、真中君が他の男子たちと一緒にいる所を見かけたけれど、普段と変わらないようでいて、でも明らかに、何か様子が違っていた。
 きっと、私たちに気を遣ってくれていたのだろう。でも私は知っている。あの日、私の前から走り去った彼が、屋上で一人泣いていたことを―――。
 二人はもう、互いの気持ちを確認しただろう。つまり、御堂君が私に会って話したい事とは、私たちの関係の終わりについてだ。
 悲しいはずなのに、真中君のあのなけなしの笑顔が浮かぶと、なんとも複雑な気分になる。もっとイヤな奴だったら良かったのに。そうすれば、思う存分彼を憎んで非難して、少しは気分も楽になれたのに。
(御堂君が好きになった人だもんね、イヤな人なわけないか・・・)
 もう一度ため息を吐き出す。
 悔しいけれど、私が入り込む隙間なんて、二人の間にはきっとない。でも・・・。
(なんか放っておけないのよね、あの二人)
 失恋したのは私なのに、うまく行った二人の心配をしているなんておかしな話だけど、唯一二人のことを理解してあげられるのは私だから、彼らの前途多難な恋を、陰で支えてあげたいなんて、少しお節介な企みがむくむくと頭をもたげてきてしまった。
(私って変かも・・・)
 明日の放課後、御堂君への私の恋は終わる。
 けれど、不思議と気分は上向いて、何故だか私の高校生活は、もっともっと輝き出すような気がした。


 −2ヶ月後−

 学校付近のハンバーガーショップは、すっかり私たちの行きつけの場所となっていた。同じ制服の学生があちこちで談笑している。
 私の右隣には真中君、さらにその隣には、御堂君の席が確保されている。御堂君はまだ背後のレジカウンターで品物ができるのを待っていた。私たちは一足先に椅子に腰を下ろす。
「ねぇ、朱里。要ってホントにオレのこと好きなのかなぁ?」
 座ってコーヒーのカップにミルクを入れようとしたら、真中君が沈んだ声で切り出してきた。私はミルクをカップに注ぎながら「どうして?」と続きを促す。
「だって、これまでとちっとも態度変わらないんだよ? むしろ前より素っ気ないし。なんかオレばっか意識しちゃって、不安なんだよね・・・」
「そんなの私に言わないで直接本人に聞けばいいじゃない?」
「できないよ! 恥ずかしいもん・・・」
 そう言うと、真中君は拗ねたようにポテトを小さくかじり始めた。
「あなたのノロケ話を聞かされるこっちの方が恥ずかしいわよ・・・」
「ノロケてないじゃん。悩んでるの! 朱里までオレに冷たい・・・」
 いじける真中君をちょっぴり可愛いと思いつつ、私はコーヒーカップをマドラーでかき混ぜる。
「でも、これまで通りの関係でいいって言ったのは雪ちゃんの方じゃなかった?」
「そうなんだけどさ・・・」
 真中君は私を『朱里』と名前で呼び、私は彼を『雪ちゃん』と呼ぶようになっていた。今ではすっかり彼の恋の相談役だ。
「何の話?」
 そこに御堂君が飲み物とハンバーガーの乗ったトレイを持って席へとやって来た。
「要君、雪ちゃんが疑ってるよ? 浮気でもしてるんじゃないかって」 
「はぁ?」
「朱里っ! オレそんなこと言ってないだろ!!」
「似たようなニュアンスだったでしょ」
「全然違うよ!」
 ムキになって否定する真中君に、私は必死に笑いを噛み殺す。
「何? ユキは俺が浮気してると思ってるの?」
 テーブルに頬杖を付き、御堂君が真中君の顔を覗き込む。高い丸椅子でも、難なく足を組み腰掛ける様がなんとも優美だ。
「そうじゃ・・・ないけど・・・」
 御堂君にまじまじと見つめられ、真中君が恥ずかしそうに俯く。
「要君が素っ気ないから拗ねてるのよ」
「俺いつも通りだよ? それに、ユキがそれでいいって言ったんだろ?」
「・・・うぐっ」
 御堂君からも私と同じことを指摘され、真中君は肩をすくめた。
「要は平気なの? その・・・何もなくて・・・」
「俺は片想い暦長いからね。だからユキも同じ気持ちだって分かっただけで今は充分。それとも何? 恋人同士みたいに手繋いだり抱き合ったりしたいの?」
「うああぁぁ別にそんなんじゃ・・・」
「ちょっと、そういう話は二人きりの時にしてくれる?」
 顔を真っ赤にして否定している真中君と、どこまでも不敵に彼を挑発する御堂君を冷ややかに一瞥し、私は低く言い放った。
「あ、ごめんっ」
 同時に口をつぐむ二人に、思わず吹き出す。

 御堂君への恋は破れてしまったけれど、代わりに私は、大切な友人を得ることができた。今では二人とも、かけがえのない存在だ。
 彼らが想いを通じ合わせていることは、私しか知らない。二人の恋が壊れてしまわぬよう、せめてこの高校生活の間だけでも力になれたらと思う。最初は気を遣って遠慮していた彼らも、私があまりにあっけらかんとしているからか徐々に心を許してくれるようになった。正直私自身も驚いている。だって、現状の方が断然楽しいし、二人の恋を後押ししたいと、心から願っているのだから。
 お互いを想い、信頼し、通じ合っているからこその彼らの関係性が、微笑ましくもあり、憧れたりもする。
(いつか私も、そういう人とめぐり逢えるかな・・・)
 残り少なくなったポテトの取り合いを始めた二人を眺めながら、私はぼんやりと、そんなことを思った。


作品名:終わらない僕ら 作家名:城咲らんる