小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」
島原あゆむ
島原あゆむ
novelistID. 27645
新規ユーザー登録
E-MAIL
PASSWORD
次回から自動でログイン

 

作品詳細に戻る

 

【第九回・伍】散歩道

INDEX|7ページ/18ページ|

次のページ前のページ
 


白くでもどこかしろ灰色のアスファルトが顔を出している初雪が降った日
「飲みますか?」
大きな手に包まれた茶色い缶が視界に入った
「甘いですから大丈夫ですよ」
少し白く湯気の上がっている缶を見てそしてそのまま視線を上に上げる
「熱いもん」
舌ったらずな言葉で返すと缶が引っ込められた
「…そんなに熱くないですよ若」
しばらくしてまた視界に入ってきた缶を再び見る
「柴田は熱くないの?」
にっこり微笑んで頷いたのは柴田
「大丈夫ですよ?」
そう言って缶を差し出す
「…コーヒー?」
受け取った缶からは香ばしい香りが湯気と共に上っていた
「苦い?」
缶から柴田へと視線を移しながら言う
「甘いですよ若も飲めるよう一番甘いの買いましたから」
柴田の手が伸びてきたかと思うと服の裾で鼻を拭かれた
「そんな薄着で寒いでしょう? 鼻水でてますよ」
ペロ~ンと糸を引いた袖口を見せて柴田が笑う
「柴田がいなくなるからだもん」
ジャッと水気を含んだ雪を小さな長靴の足が蹴り上げた
「いつもいないから今日はずっと付いて歩くって決めたのにまたいなくなりそうだったんだもん」
両手で持った缶から暖かいぬくもりが掌を通った
「スイマセン…;」
大きな掌が小さな頭を覆った
「みんな忙しそうで俺だけ置いていかれそうで柴田もどっかいっちゃって」
ピスーっという鼻から息が抜ける音がした
「若; 鼻ちょうちんでてます」
柴田が再び服の裾で鼻を拭ってくれた
「…今は先代…若のおじいさんが亡くなって今の組長…若のお父さんに代わったばかりでバタバタしてるんですよ」
目が熱くなって視界がぼやけてきた
「それに俺はどこにも行きませんよ…」
一瞬暗くなった世界から明るい世界に戻ってくると頬を冷たい液体が流れた
「あ~; 若;缶の中に涙入りますよ;」
グシュグシュという鼻を啜る音と白い吐息と少し慌てた柴田の声
「ほら; 泣かないで…そうだ! チーズおかき食べますか?」
柴田がポケットから一枚のチーズおかきを取り出して微笑んだ
「後から食べようと思ってたんですけど…どうぞ」
袋を破いた柴田がチーズおかきを口に押し込んできた
「口閉じないと落としますよ?」
苦笑いで手を離した柴田がその手を再び頭に乗せた
「外で菓子食べたなんて姐さんには内緒ですからね」
いきなりグンっと高くなった視界
「帰りますよ」
そして少し下になった柴田の顔
「…うん」
頷くと柴田が笑顔を向けた
「…甘いね」
「でしょう? 熱いですか?」
「ううん…ぬるい」
「さっき若の涙が入っちゃって冷めたんじゃないですか?」
またチラチラと降り出した雪の中
人通りのない田舎道を大きな足跡が一列に
でも話し声は二人分

木製の天井には所々にできたシミ
嗅ぎなれた自分の布団の匂いに坂田がまたうとうとと目を閉じ始める
「……!!」
ガバッと布団をはぎ体を起こすとそこは目を閉じた京助の家の茶の間ではなく明かりの消された自分の部屋
「…俺…」
時計を見ると午前1時
「…なんで…」
まだぼやっとしている頭をかきながら坂田が布団から出た
「…さむ;」
ふと目を向けた窓には外灯の灯りで影絵のようになった雪が映っている
「…寒いわけだ…」
カーテンを開けた坂田が寒いとわかっているのに窓を開ける
「根雪になるんかな…今年はもう」
空を見上げると吸い込まれそうなカンジになる
降ってきてるのかそれとも上っていっているのか
「…変な夢」
しばらく空を見ていた坂田が結んだあった髪を解いて窓を閉めた