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トホホ家族計画

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父さんは俺の話は全然聞かないで全く関係ないことを話し始めた。俺の父親は恋愛小説家の癖に取材旅行だと言ってばかり行きたがる。仕事はちっともしないくせに。ただ書くようになるとどこかの漫画家のようにものすごい作品を書くからたちが悪い。編集部の人たちもその点は評価しているらしく放任している。ただ当たり前のことだが書いてくれないと家には一銭も入らない。だから俺と母さんとでなんとか日々の生活を維持しているという訳だ。
 旅行に行かないときはこうして家にある置物磨いたり次はどこに行こうかなどということを延々と考えていた。

「父さん。聞いてくれ。父さんが働いてくれないと俺たちは生活できないんだよ! なんでもいいから仕事してくれよ。そうだ雑誌のコラムとかでもいいんじゃない? 前に編集の前田さんが―」
「いやそれよりもムー大陸とか探しに行って見ようか。どっちも捨てがたいな。いやどっちも行くと言うのも良いかも知れんな」
「父さん……」

父さんには俺の話は全然耳に入っていないようだった。俺は諦めて居間を後にすることにした。何かどっと疲れたような気がした。俺は早いが今日の所は寝ることにした。
 部屋に行くと社姉はすでに眠っていた。俺と社姉はここ何年か同じ部屋で寝ることになっていた。それは姉さんが自殺しないように見張るためだ。前は別な部屋だったがたびたびリストカットしようとするので何年か前から同じ部屋で寝ることになった。
姉さんのすすり泣きや呪詛が聞こえてくるので非常に寝にくい。

「なんで……一巻が……借りられてるんだ。シクシク……私絶対に許さない!」
「いっその……こと」

またかと思ったがこのままでは俺が眠れない。社姉はいつも小さなことで絶望感を感じ欝になる。今日はどうやらレンタル屋で借りたいDVDの一巻がなかったようだ。俺は社姉のベットの近くまで言って優しく囁いてやった。

「社姉。それなら明日俺と一緒に2巻を借りてこよう。そしてその一巻を借りた人が返しに来るのを見守ろうよ。その人が2巻を借りようとして2巻が無かったらどんな顔をするんだろうね。ねえ。社姉楽しみじゃない?」
「っ! 実……。ありがとう。そうだね。最初からそうすればよかったんだ。なんで気付かなかったんだろう。これで明日の生きる活力が得られる。姉さん何か少し疲れた。眠るよ」
「うん。お休み。社姉」

そう言うと社姉は安かに眠りに落ちた。俺にできることは夢の中だけでもいい夢が見れることを祈るだけだった。俺はベッドの中で自分の中にこんな醜い考えが出ることに恐怖していた。俺はここ何年かの内にかなり薄汚れているようだった。家族のためだとはいえ、俺はなんていう考えが浮かんでしまうのだろうか。
 俺は昔のことを思い出していた。

『昔はこんなんじゃなかったのに……』

俺は平穏だった昔を思い返していた。まだ真面目に仕事をしていた頃の父親。

「どうだ。父さん。芥川賞を取った夢を見たんだぞ」
「わあ。父さんすごいや。僕も大きくなったら父さんみたいな小説家になるよ」
「ああ。そうだな。そのためにはな。色んなものを見て、経験しておくといい、全て創作の糧になるんだからな」
「それでな。今回も小説の書き方の練習するぞ。実ならこのテーマならどう書く?」
「僕ならね。こう……だね」
「さすが俺の息子だな。じゃあ……はどうだ」
「これはね。こう……だよ」
「ほうほう。実。お前なら今からでもデビューできるんじゃないか」
「えへへ。そうかなあ」

今思うと父さんの賞を取った時の作品は俺が書いていたのかもしれない。

PCを知らなかった母親。

じゃんじゃんばりばり

パチンコ中毒だった。

「奥さん! 子供つれてきちゃだめだってあれ程言ってるじゃないですか」
「うるさいわね! 私は客なのよ。子供連れてきて何が悪いっていうのよ。やった! 当たった確変よおお。実! ちょっとたばこ買ってきて」
「奥さんあのですね……」
「あんたもぼさっと立ってないで箱持って来なさいよ!」

今の方がまだ……ましかも知れない。

いつも完璧だった姉
「これも駄目。駄作。駄作―!」
「ね。姉さん。どうしたの?」 
「果物の絵を描いてくる課題が出てるんだけどどうしてもりんごの瑞瑞しさが表現できないんだよ」

破り捨てた絵を見たがまるで写真で取ったくらいのクォリティーの高さだった。何がだめなのかその頃の俺には分からなかった。今思えばその完璧主義が今の些細なことで欝になることに繋がっているのかも知れなかった。

まだ可愛げあった妹。

「お兄ちゃんー! こっちだよー」
「審―! 今行くよー」
「こっちだよー。もうちょっと左、ううん、右だよー」
「どっちなのー。あきらー。わかんないんだけどー」
「こっちだよー。こっち。こっちー」
「なんだ。ここに居たんだ。審。今そっちに行くからね」
「うん。そのまままっすぐ来てね。うんうん。その調子だよー」
「審ったらおかしなことを言うんだね。待ってて。今そっちに行くからああああああああああああああああああああああああああああああああああーあああああああああああああああ」
「あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ」

あの落し穴深かったなあ。

『ああ。あの頃に戻りたいな』

でも俺は色々大変なことは多いが家族ために頑張ろうと新たに決意した。腹が立つことばかりだがきっとみんな改心してくれるだろうと無理やりそう思い込むことにしてその日は寝た。


次の日、朝からばたばたしているので何かと思い、部屋から出て一階に降りて見るとやたらとでかいリュックを背負った父親が玄関にいた。

「おう。実か。父さん出かけてくる。今回は長くなるかもしれない」

父さんは靴を履きだした。その姿を見て俺は愕然とした。せっかく俺は昨日家族のために頑張ろうと決意したのにこの糞親父は再び家族を置いて旅立とうしていた。俺の中の怒りのスイッチがオンになった瞬間だった。

俺は気が付いたら親父に鉄拳を食らわせていた。

「座れ。このくそ親父!」
「ぐう。実う。なぜだあ」

親父は尻餅つきながら俺に殴られた頬を擦りながら呆然としていた。

「何騒いでるの?」
「あにい。何してんのよ? 朝から」
「実。私の睡眠を妨げるなんて覚悟はできてるよね」

ちょうど母さんが仕事から帰ってきたようだった。そして、この騒ぎで社姉と審も起きて来たようだ。みんなちょうどそろったので言ってやった。

「もう俺は我慢できない! みんな好き勝手やって。俺はもう知らないからな」

俺は思い切り体を逸らして両手を広げて見せた。

「そんな? 実がいるから楽できるのに」

母さんが思わず本音をもらした。その言動がさらに俺の怒りのゲージをマックスにさせた。

「それがいけねえんじゃねえのか!」

俺は思わず右の拳を床に叩き付けた。右拳の痛みで俺は瞬間的に冷静になった。もしかしたらこれでこの家族を改革出来るかも知れない。俺は実行してみることにした。目の前にはまだ腰を抜かしている親父がいた。
作品名:トホホ家族計画 作家名:kaji