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トホホ家族計画

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とさっきまでの人生の最終極点に立たされていたような顔から一変して社姉は人懐こい満面の笑みに変化(へんげ)した。いつみても職人芸だなあと俺は思った。社姉は異常に外面はよくて学校の中では猫500匹くらい被っている。俺はその分そのギャップに苦しんでいる。

「早くしないと遅れるわよ」

妹のクールな言葉に現実に引き戻された俺は学校に急いだ。姉と妹の接点が少ない学校だけが俺の心の休まる場所だ。こんにちは学校。俺のベストプレイス。
 だがそう人生はうまく行かないものだ。学校でも俺の気は休まらないのだ。

「2年C組の結実君、職員室まで。繰り返します……」

午前の休み時間俺は急に呼び出されることになった。行ってみるとお姉さんの具合が悪いそうだから連れて帰ってくれとのことだ。

「なんで俺なんですか?」
「なんでってお前の姉さんだろうが」

この教師はやたらと姉さんのことを気に入っているみたいなのでさも当然という感じで言った。保健室で寝ているということなので行ってみると社姉はベッドで寝ていた。

「ごめんね。実。なんか具合が悪くなってきて」
「別にもう慣れたからいいけど今度はどうしたの? ついにアルマ○ドンでも召喚されたの?」

俺そう言うと社姉はベッドの上で力が無く首を振った。そして、遠い目をしたかと思うと急に世界の終末を見つめるヒロインのような目をした。

「そんなことじゃないの。あのね。鉛筆がね。鉛筆の芯がね……折れたのよ」
「うん。それで?」
「それでって鉛筆の芯が折れたのよ! 私とても悲しくなって具合悪くなっちゃった」
「まさかそれだけじゃないよね!?」
「実。姉さん怒るわよ。それだけってあのね。一本だけじゃないのよ。使う鉛筆の芯がことごとく折れていくのよ。最後には使える鉛筆が無くなっちゃった。姉さん。もうだめみたい」

そう言って社姉は手を胸の前で組んで目を閉じた。埋葬でもしてほしいんだろうか。

「実……。できたら私の灰は海に流してくれるとうれしいな」

社姉がそんなことをほざいたが俺は病院に連れて行こうか家に連れて行こうか迷ったが家に連れて帰ることにした。社姉。明日はきっといいことあるよ。

別な日、俺が昼休みに学校の廊下で歩いていると友達2、3人と一緒の妹の審と出くわした。正直学校では妹とは係わり合いになりたくなかった。なぜならば

「あ。兄さん見っけ♪」

審はそう言うと俺に抱きついてきた。妹は学校ではなぜか兄さん大好きっ子を装っているのだ。

「審って本当にお兄さんのことが大好きなんだね」
「うん。実兄さんってかっこよくて、やさしくて私大好き♪」

そう言ってより一層力を込めてくるので俺は何を企んでいるのかと思った。俺の全身から汗が噴出し、鳥肌が立った。俺はそれを悟らないように恥ずかしいからやめてくれと言って妹を突き放した。

「きゃっ。兄さんひどい」

審は大げさに転んで見せて上目遣いで俺を見た。それを見た周りの審の友達が審に駆け寄った。

「お兄さんどういうことですか! 審にこんなひどいことするなんて」
「先生―!審のお兄さんが審をいじめてますー」

審の友達は「大丈夫?」とかなんとか言いながら審を抱き起こした。俺はやっぱりこういうことになったかと思い、頭が痛い思いをしていたがさらに頭が痛い自体が起こることになった。またあの教師がやってきたのだ。

「おい! 何事だ。うん? 結! またお前か」
「俺は何もしてないんですが……」

弁解はして見たがこの教師は聞いちゃいなかった。

「お前は姉だけに飽き足らずに妹にまで……。ちょっと来い。個人的に言いたいことがあるから生徒指導してやる」
「え! ちょ。ちょっと待ってくださいよ。先生」

俺は無理やり先生に引っ張られて生徒指導室まで連れて行かれることになった。引っ張られながら審を見たら審はしてやったりという笑みを一瞬見せたのを見逃さなかった。
その後教師から姉と妹というものはいかに尊いものかということを2時間に渡って説かれ、姉妹を大切にするという反省文を10枚書かされた。


 家に帰ってもまた一仕事がある。母親にゲームを止めさせて仕事に行くようにさせなければならないからだ。暇つぶしで始めたネットゲームだが今では中毒と言ってもいいくらいにはまっていて放っておくと寝る間を惜しんででもゲームをやっている。母親は朝仕事から帰ったら寝て、起きたらそのまま仕事時間ぎりぎりまでネットゲームをやっている。
 母親の部屋に入ると案の定絶賛ゲーム中だった。

「母さんそろそろ仕事に行かないと」
「……。そうだね」

最初が生返事というのはいつものことなので俺は特に気にはしなかった。さて今日はどんな方法で止めさせようか。

「母さん! さすがにそろそろ止めないと仕事遅れるよ?」
「実……。私がいないとね。チームが全滅してしまうのよ。ここで抜ける訳には行かないのよ」

そんなに仕事よりゲームが大事なのかと思ったが世間にはそういった人間が多いと聞くし、俺も多少はネットゲームはやったこともあるのでその世界のことについてはある程度理解しているつもりだった。この前なんか合宿があるとか言って仕事を休んでまでゲームをして最後は眠気に勝てなくなって寝落ちしていた。

「ねえ。母さん。仕事だとか言って抜ければいいじゃない? それなら誰も無理に引きとめないでしょ」
「まあ。そうなん……だけどね。なんか途中で抜けるのが悪いような気がしてね」

そう言いつつ母さんの手は止まらなかった。熟練の手つきでマウスとキーボードを操作してPC上のキャラクターを操作していた。今は主婦でもネットゲームにはまっていて離婚したとか結構問題になっているみたいだからな。埒があかないので俺はいつもの奥の手を使うことにした。その方法とは俺が母さんのやっているネットゲームに入り込んで直接母さんがPTを組んでいる仲間に交渉するという作戦だ。うまく説得できれば問題ないのだが抉れそうなら俺が母さんと交代して俺が代理でPTを維持したりなどしていた。
 今回はなんとかうまく交渉がい行った。何回かやり取りするうちに母さんの仲間にも俺のことが認識されるようになり今までは殆ど俺も仲間同然だった。

「こっちは大丈夫だから母さんは早く仕事に行って」
「わかったわよ。行けばいいんでしょ。あーあ。めんどー」

そう言いながら母さんは部屋から出て行った。まったくどうしようもない母親だなと思ったが働いているだけまだましかもしれない。なにせ父親の方がもっとひどい人だからだ。
 俺はなんとか切の良い所でPTを抜けてログアウトした。部屋から出て居間に行くと父さんが何か変な置物を磨いていた。俺の父さんは前に言った通りに旅行狂だがそこで毎回変な置物を買ってくるのだ。おかげで家の中はあちらこちらに置物が転がっていた。たぶん量なら下手な骨董屋よりは在庫を持っていると思う。変なものが多いので俺はものすごく薄気味悪かった。

「父さん、そんなもの磨いてないで仕事してよ。小説は進んでるの?」
「それよりも聞いてくれ。次はバチカンとか攻めてみようかと思ってるんだがどうだ?」
作品名:トホホ家族計画 作家名:kaji