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トホホ家族計画

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「まず親父! お前はいつまでそんなスナ○キンみたいな生活をしたがるんだ!もう止めろ! 止めねえっていうならな。親父がイースター島で盗って来たモアイ像破壊するからな」

俺は玄関にあるモアイ像を指差した。さすがの親父はこれには反応して立ち上がって抗議してきた。

「実よ。それは卑怯ではないのか!」 
「親父……。それが嫌だったら言うとおりにするんだな。悪いが俺はこのモアイ像を破壊するために少林寺拳法を習った。こんなひび割れたモアイ像くらい一発だぞ!」

俺はモアイ像に近寄るとモアイ像の近くで殴る真似をしてみせた。親父は俺が見たことが無いほどに顔を青ざめて大量の汗を掻いていた。

「む。むう」

さすがの親父も黙ってしまった。よし。これで親父は攻略終了だ。

「そして母さん。あんた俺はな。いつでもあんたのゲーム中毒を止めさせることができるんだぞ!」
「実! まさかIDを消すつもり」
「ああ。そうだ。IDだろうがなんだろうが母さんがいねえうちに消してやることできるんだぞ!」
「や。やめてそれだけはやめて」
「なら。前みたいにちゃんと家事やってくれ。お願いだから!」
「は。はいぃ」

母さんは項垂れた。これで母さんも攻略完了だ。

「そして、社姉そんなに死にたいなら死んだらいい」
「っ!?」
「ただな。死ぬときは一緒だ。多摩川だろうが玉川だろうが四万十川だろうがこのままの状態が続くなら俺は死んでもいいと思ってる」
「実ぅ」

そう言うと姉は恍惚な表情を見せてそして、目から光るものを編み出した。これで社姉も攻略完了だ。

「そして審お前は何がしたい。俺を罠にはめてそんなに楽しいか!」
「楽しいに決まってるじゃない。何が悪いの?」
「これでもそれが言えるのかな?」

そう言って俺はあるものを取り出した。それはチョコだ。しかもただのチョコではない。生チョコレートだ。あの舌に触るだけでとろけるような食感はまさに至高の一品。

「そ。そんなもので懐柔される訳がないでしょう」

そう言いながらすでに俺の手にあった生チョコは妹の口の中だった。

「な。なんでなの? 手が。手が止まらない!?」

勝った。俺はやつらに勝ったんだ。俺の戦いは長い長いものだった。しかし今終止符が打たれたのだ。俺は思わず家から出て勝訴という紙を持ってご近所中を走り回りたい気持ちでいっぱいだった。

「さてと……。じゃあ父さんは旅に出るからな。後はよろしく頼む」

親父は何事もなかったかのように旅に出発しようとしていた。

「親父いいのか! モアイ像を破壊するぞ!」
「やってみろ。息子よ」

ボカ

「ぐ。なん……だと」

割れないなぜなんだ。俺が不思議に思っていると親父は玄関の前で立ち上がった。親父の背後からはなぜか朝日が眩しい程に照らされて親父の姿がよく見えなかった。

「こんなこともあろうかとモアイ像には特殊コーティングしてある。それに割られてもまた盗りにいけばいいしな」

親父は眩しいほどの笑顔を残して去っていった。なんちゅう親父だ。世界遺産だぞ。そんな近所に栗拾いに行くような感覚で言いやがって。

「実。甘いわね。私は4IDよ。ひとつくらい消されてもなんとでもないんだから」
「く。というかどれくらいやってるんだ」

親父が去るのを見届けると母さんは俺に詰め寄って言った。俺はもうこの人はだめだと思った。勝手にいつまでもやってろ。

「実? 本当にやってくれるのか? 私としては練炭とかがおすすめなんだけどな。どうだ?」
「いえ。それは言葉のあやでして」
「兄い。もうチョコはないのか。もう食べてしまったぞ」

更に社姉と審まで詰め寄ってきた。社姉がこんなに乗ってくるとは思わなかったし、箱で買っていたチョコがもうないので審の攻めもかわせない。

「チョコを早くよこせ」
「ねえ。それか。断崖絶壁から二人でダイブと言うのも素敵だと思うんだ。ああ。いいなあ」
「実! やれるならやってみなさいよ!」

妹の目はドラック患者のように狂気の色に染まっていた。社姉は恍惚な表情で迫ってきた。母さんは今にも俺に殴りかかりそうな勢いだ。一気に立場が逆転し、俺は岐路に立たされていた。やっぱり俺はこの人たちには勝てそうに無いと思った。どうやら俺の体がそう思い込まされているらしい。さっきから体の震えが止まらなかった。

「もう勘弁してください。俺が悪かったです!」 
「そう思うなら早く朝食作りなさい!」

妹がチョコの箱をひねり潰しながら言った。

「はい! ただいま!」

俺は大急ぎで朝食を作りにいった。俺は目の前が霞んで見えなかったが耐え忍んでフライパンを振るった。次こそは次こそは勝ってみせる。その日の朝食はちょっと塩が効いていた。


妹 ざっとこんなものよ。みんな甘いんだから。
姉 よかった。実に匙なげられたらもう楽できないからな。
母 さすが審ね。これからもお願いね。

そんな不穏な会話をしているにも関わらず俺は健気に朝食を作っていた。

「お嬢様方―。朝食ができましたよー!」

実の家族計画が成功する日は果たしてくるだろうか。



作品名:トホホ家族計画 作家名:kaji