緑の季節【第三部】
戻ってくると席に女性の後ろ姿があった。
(沙耶・・)
急いで席に戻って向い側に座った。
「沙耶香、来てくれたんだ」
「おはよう」
「おはよう。ありがとう」
「寒いね。私も頼んでもいい?」
「ああ」
覚士は店員に手を上げ示した。
「ホットココア」
しばらくして、ホットココアが運ばれてきた。
沙耶香は冷えた手を温めるかのようにカップを持って、熱いココアをゆっくりと飲み始めたが、その間ずっと覚士は、なんと言い出していいかわからなかった。
ポケットから箱を取り出し、沙耶香の前のテーブルに差し出した。
「あっ」
沙耶香の顔が少し曇った。
「これ、誕生日の日に持ってきてくれたんだよね。ありがとう」
沙耶香は、小さく頷いた。
「たくさん謝らなきゃいけないことがある」
「もう謝らなくていい。あの日で終わったから」
「8月12日?」
「なんだ、覚えてたんだ。じゃあやっぱりもう沙耶香には会いたくなかったんだね」
沙耶香がテーブルの上の箱を自分のバッグにしまおうとしたその手を止めた。
「違う。違うんだ。知らなかった。箱の中の手紙も・・。ごめん。いまさらどんなに謝っても許してもらえないと思うけど、そのペンダントくれないか。君の写真とともに」
沙耶香はバッグに入れかけた箱を開けると覚士用を渡した。
「ありがとう。大切にするよ」