緑の季節【第三部】
覚士にとっては、長い一週間が始まった。
沙耶香の両親に挨拶もなく、沙耶香を呼び出してしまったことにも後ろめたさがあったし、沙耶香が来ることすらも確信が持てていないこの状況は、仕事を離れると、覚士をずっと悩ました。
「どうした?心配事なら聞くぞ。お父さんは頼もしいんだ」と父親になった同僚の武田は励ますが、冗談のひとつも返せなかった。
それにこのことを幸せになろうとしている水上に悟られてはいけないと誰にも話さなかった。
長いと思った日々も過ぎ、いよいよその日は明日となった。
沙耶香からのメールや連絡は来ない。
その夜はなかなか寝つかれなかったが、疲れた体と心は深い眠りへとつかせた。
はっと目覚めた覚士は、とてもすっきりとしていた。
もう迷いが消えたように。
しかし、沙耶香が来るかどうか半信半疑のまま店に向かい、席で待つ間はやはり落ち着けなかった。
入り口が開くたびに視線はそちらへと向いてしまう。
あえて時間は指定しなかったことを少し悔やんだ。
どれくらいこの状態を続けるのか、胃でも痛くなりそうだった。
注文したコーヒーを飲み終え、水ばかりおかわりしていたせいで、覚士はトイレへと行きたくなった。
席を離れ、用を済ませ、洗面台の鏡に映る自分の姿に拳をぶつけた。