緑の季節【第三部】
部屋に戻った覚士は、半年前からリビングの棚に置かれたままの包みを手に取った。
包みの中身は、誕生日に沙耶香が届けに来たロケットペンダント。
ふたりのイニシャルが彫られているオリジナルだった。
きっと覚士の誕生日のために1ヶ月以上前から注文していたに違いないものだった。
その思いを裏切った自分を覚士は許せなかった。
そのペンダントを開けたところには沙耶香の顔写真と小さな文字で綴られた手紙が入っていた。
今初めて気づいた手紙には、覚士への思いと沙耶香の願いが書いてあった。
『楽しく幸せな時間とそのときもらった笑顔を送ります。誰よりも沙耶香が心の中にいたらもうひとつのロケットに貴方の写真を入れて会いに来てください。出会った日まで待ってます』
(もうひとつ?)
箱の台座の下に紙に包まれたものがあった。
包みの中には覚士とお揃いのロケットペンダントだったが、良く見るとイニシャルの書き方が少し違う沙耶香用のロケットだった。
覚士は二つを握り締めて後悔した。
出会った日などとうに過ぎてしまった。
たぶん沙耶香はその日を待っていたに違いない。
この手紙やプレゼントに気づかなかったこととはいえ、そのせいで沙耶香は自分を諦め、忘れたんだとやっと覚士には理解できた。
《今すぐにでも会って伝えたいことがあるけれど、少し時間をください。会ってもらえるならば、来週の土曜日にあの日のあの場所へ来てください。僕はずっと待っています》
送信
メールの返事は戻って来なかった。