緑の季節【第三部】
「真壁さん、前に『成田離婚』なんて言葉が流行ったことがあったが、そこまで行かなくて良かったよ。ははは。婚姻届をまだ出してないからね。今は親戚も友人も出席してくれた方は驚きと怒りとさまざまだろうね。だから君にはこれからの沙耶香を守る壁になってもらわないと困るよ。沙耶香が君を許す許さないにかかわらず、それが君の償いだ」
覚士は、沙耶香の父親の言葉に驚きを感じながらも大きな慈愛に感謝していた。
「ありがとうございます」
「いや、勘違いしてもらっては困る。私も許しているわけではない。今日は沙耶香に会わせる気はないからね。このまま帰りなさい」
「はい」
「では、後日。失礼するよ」と席を立って振り返りもせず奥へと歩いていった。
その後ろ姿に深々と頭を下げたまま、なかなか頭を上げられなかった。
頭を下げたままの視界に女性の足元が見え、それは覚士の横に並んだ。
「もう、伯父様居ないわよ」
その声にやっと顔を上げ、横を見ると、先ほどの腕を引っ張っていった女性だった。
「そういう事だったのね。伯父様が熱心に頼んでくるし、ちょっと面白そうだったから
引き受けたけど、沙耶香の本当の恋人?」
「いや、そんなんじゃないさ」
「でも実際に、式はめちゃめちゃ。でもお料理美味しかったし、面白かったわ」
覚士は、彼女の横をすり抜けて式場から出た。