緑の季節【第三部】
会場に残された新郎は何がなんだかわからない表情のまま、高砂の席の前で花束を抱えたまま座り込んでいた。
その状況を目の当たりにした覚士もまた同様に席から立ち上がることができなかった。
がやがやと再びざわめく会場に司会の女性は落ち着いた声で話し始めた。
「皆様、突然のこと誠に申し訳ございませんが、ただいま新婦様方より本日の御披露宴の続行は難しいとのご連絡が入りました。ご出席の皆様、・・・・・」
もうその先など誰も聞かないまま、席を立ち、会場から出て行った。
覚士もやっと会場を出ると、柱のところで同じテーブルについていたゲスト、おそらく沙耶香の上司や来賓として招かれた人だろう、沙耶香の父親が頭を下げ、話をしていた。
そうさせてしまったのは、やはり自分ではないか・・・
覚士は、その場を離れられないまま、立ちすくんでいるしかなかった。
話も一段落ついたのか、そのゲスト達は出口へと帰って行った。
そして、覚士を見つけた沙耶香の父親が近づいて声を掛けてきた。
「とんだセレモニーになったよ」
「僕は、来なかったほうが良かった。申し訳ありません」
「本当に困ったもんだ。この後は大変だ」
「僕は・・」
沙耶香の父親は壁際のソファーに腰掛け、覚士も座るよう促した。