緑の季節【第三部】
それから数日後、昼休みを終える頃に沙耶香からのメールが届いた。
《こんにちは、沙耶香のこと忘れていませんか?元気に帰ってきました。今週の土曜日『さんぽみち』で会いませんか?》
覚士の中に沙耶香への思いが一気に膨らんだ。
《了解》送信
何とも素っ気ない言葉を久々のメールに送ったと覚士は思ったが、それ以上の言葉が見つからなかった。
「何かありましたか?」
午後からの仕事を始めてからまもなく後ろから声を掛けられた。
「あ」
振り返るとそこに立っていた女性は、まだ面識のほとんどない彼女だった。
「はじめまして。と挨拶させていただくのがいいかしら。水上と申します。お戻りになってからなかなかお声を掛ける機会がなかったものですから遅くなりましたが、正式に社員となりましたので、今後とも宜しくお願いいたします」
「ああ、こちらこそ宜しくお願いします」
通信はしていたとはいえ 直接話す機会は初めて同士の挨拶はどこか照れくさいものだ。
「何となくニコニコなさっていたのでお声を掛け易いかなって思ったのですが、いいことがありましたか?」
「あ、にやけてましたか?まいったな、変なとこ見られた。そうだ、水上さんはどこの担当?」
「まだ、担当はありませんが、書類のまとめや清書といったところでしょうか。一応春まで研修ということなので言われるままにいろいろさせて頂いてます。じゃあ失礼します」
水上は、入り口ドア近くの席に戻って行ったが、次々に頼まれる仕事に席に落ち着いていることがないほど良く動いていた。
「どうですか」
武田は覚士の肩を叩いてきた。
「見てただろ、彼女の事。彼女、派遣の時から頑張ってたから契約が切れる間際に社員にって勧められてな」
「そう」
「あれ、それだけ?」
武田は、そのまま営業に出かけて行った。