緑の季節【第三部】
覚士は、誕生日を迎えた。
誰もいない部屋に戻り、ひとりビールで祝った。
携帯電話が鳴った。
覚士の両親からだ。
「ひとりなの?」母親は聞いた。
「今から来るんだ」と答えて電話を切った。
ドアの方で音がしたように感じた。
慌てて走ってドアスコープを覗いたが、人影もなければ、気配さえ思い違いだったように静かだった。
(来るわけないか)
そう思い戻りかけたが、とりあえずドアを開けてみた。
ドアノブに小さな袋が掛けられていたらしく、コトッと床に落ちた。
「えっ、沙耶、香・・」
覚士は、靴も履かず通路に飛び出したが沙耶香の姿を見つけられない。
適当にサンダルを履き、外の道路まで下りたが、やはりいない。
仕方なく、部屋に戻った覚士はその包みを開けた。
そこには、確かに沙耶香が今居たということしかわからなかった。
覚士は、すぐ携帯電話で連絡を入れたが、やはり依然変わらぬ状況のままだった。
「なら、何故来たんだ?」
その日以来、包み直したままのプレゼントはリビングの棚に入ったままだった。