緑の季節【第三部】
そんな覚士に沙耶香の父は、告げた。
「父親として沙耶香のことを思うと決して君を許す気にはなれない。しかし今までの沙耶香へのそして私たちへの君の態度は私としては誠実に感じていました。そして男同士とすれば、わからぬこともない。今はどの君を選ぶかだ。何より沙耶香の気持ちを考えてやりたいと思っているよ。沙耶香がなお君を思えるのか。もう終わりにしたいと思っているのか。一人娘なのでわがままも言うだろうし、それもまた可愛い。娘を持った日から覚悟もしていたつもりだ。まだ正式に婚約を交わしたわけではないのだから、君も沙耶香もまだまだ考え直すことはできる」
「ほんとに僕は浅はかでした」
「そうだね。沙耶香もだが、亡くなった奥様も裏切ったことになるかもしれないね。まあ世間的には問題はないと思うがね。ただ 今の話は、私は妻にも言うつもりはない。男同士ということで聞いたことだからね。君も余計なことは言わない方がいい」
「はい」
沙耶香の父親は、冷めてしまったコーヒーを飲み干し、席を立った。
「今日は、君の奢りだ。また会う日があれば。じゃあ失礼するよ」
覚士は、席を立ち深々と頭を下げた。