緑の季節【第三部】
ほんのり香るパフューム。
ふと視線を彼女に向けるとややぷっくりとした唇がすぐに触れられるほど間近にあった。
覚士は、それが自然であるかのように触れてしまった。
一瞬、水上の肩に力が入ったようにも感じたが、そのまま唇を重ねてお互いに求め合った。
柔らかにしなる彼女の体とぬくもりは、このところのイラついていた気分を静めていくかのように安らぎに変えていった。
沙耶香とのどちらかといえば一方的な気を使う愛欲とは違うオトナを感じる彼女との行為は覚士にとって初めての感覚だった。
それはきっと妻の里実とも感じたことのない出来事だった。
覚士の横で深く呼吸をする水上の表情は穏やかに見えた。
彼女の髪を撫でる覚士は満たされた何かを感じたが、意識もまた現実に戻っていった。
「水上さん」
「ありがとう。彼のこと吹っ切れました」
「気分どう?って、頭痛とかしない?まだ体調悪いならこのまま泊まっていいよ」
「たぶんもう大丈夫です。支度します」と辺りを見回した。
「あの、あちら向いていていただけますか?目もつぶって」
覚士は言われるままにすると、水上は、羽織る布もないままに衣類とバッグを手にして
シャワールームへと入って行った。
覚士も着替え、しわの残るベッドに腰掛けていた。
数分後に戻って来た彼女は、会社で見るのと変わりない様子だった。
二人は部屋を出ると、会計を覚士が済ませ、外に出た。
「私のせいですから・・」とバッグをあける水上。
「さっき奢って貰ったし。ってわけじゃないけど僕が誘ってしまったから。ごめん」
「はい。じゃあまた来週。おやすみなさい」
「送って行こうか?」
水上は、首を横に振った。
「大丈夫?」
軽く頷くと目を細めて微笑んだ。と、踵をかえしその場を去って行った。