緑の季節【第三部】
そのあとの二人は、仕事の話や巷の話題に楽しく語った。
その後、水上は足つきのグラスが気になり「カシスオレンジ・マティーニ」を頼んだ。
覚士も他に2杯ほど頼んだ。
「そろそろ帰ろうか」
「はい。今日は私が誘ったから。話も聞いていただけたし」と支払いを水上は済ませた。
「悪いな、君に払わせてしまって。また埋め合わせするよ」
二人は店を出ると少し歩いた。
少し暖かな風が吹く頃になって、ほろ酔いの二人には心地よかった。
「やっぱり、ちょっと酔いました。真壁さんお先にどうぞ。私、もう少し酔いが醒めるまでこの辺りで過ごしますから」
「女性を独りこんなところへ置いていけないよ」
「今日は楽しかったです。ありがとうございました。また来週」
思ったより酔ってしまった水上を覚士はほおっておけなかった。
「駄目ですよ。今優しいこと言われたら泣いちゃうかもしれない。じゃあ」
水上は、覚士に背を向けると歩き出した。
覚士は、水上に追いつくと後ろから抱きしめていた。
「もう少し、一緒に居てあげるから」
抱きしめる水上の肩が震えた。
覚士は振り向いた水上に胸を貸した。
泣き顔の彼女と街を歩くのもどこかの喫茶店に入るのも戸惑っていた覚士だったが、酔いが醒めかけたのか気分が悪くなってきた水上とホテルの入り口をくぐった。