緑の季節【第三部】
「おい、大丈夫か。えっと、彼女に軽めの綺麗なカクテルを」
「はい」とバーテンダーは、馴れた手つきでグラスに注いだ。
「わあ綺麗な色。何?」
「スプモーニです」
そのピンクに近い赤色のカクテルは口当たりも甘く柔らかだった。
「うん、美味しい。真壁さんも飲んでみます?」
水上は、覚士の前にグラスをずらした。
覚士は、一口味見すると、グラスを戻した。
「うん、飲み易いね。でもさっきみたいに一気はやめたほうがいいよ」
「はい」
水上はとくに気にする様子もなく、覚士が口を付けたグラスを口にした。
「この紙袋の中のね、プレゼントに貰う予定だっだの。でも駄目になっちゃったから自分で買っちゃった。可笑しいでしょ」
「水上さんの誕生日か何か?」
水上はグラスを両手で触れながら、グラスに語るように話を続けた。
「ええ、先月の終わり頃、30日なんですけどね。27歳の誕生日はひとりになっちゃった。真壁さんは何月ですか?」
「僕は今月で35歳だ。まあ僕も誕生日はひとりで過ごすことになりそうだけどね。暗い背中の理由さ」
「え、どうして?噂では可愛い彼女がいるって、武田さんが」
「あいつ、案外おしゃべりだな。すいません、おかわり」
水上は、覚士に出されたグラスを覚士に持たせると、「少し遅いのと早いのだけど二人の誕生日に乾杯」とグラスを交わした。