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緑の季節【第三部】

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沙耶香と会うことのない連休を覚士はひとりもてあましていた。
何年かぶりに見に行った映画も独りで入った喫茶店も何となく時間の過ぎる場所でしかなかった。
しかし、数日間のぼんやり過ごした日々も過ぎてしまえば、ゆっくりと休養ができたようにも思え、仕事にもすっきりした気分で出かけられた。
覚士の仕事の終わるのを待って土産を手渡しに来た沙耶香をやはり愛しく思えた。
それだけで、落ち着かなかった気持ちが変わるのを自身のことながら不思議に感じた。

ふたりの仲が公認になってから、覚士の思いは加速していくようだった。
まるで、この一年間 助走をして辿りついた頂上から滑り始めたジェットコースターように。
背負ってきた里実への思い、一年間の心の解放、出会いと別れ、そして新たな恋のはじまりとともに動き出した熱くなる心。
覚士は忘れかけていた、いや忘れようとしていた思いと素直に向き合ってみようと思った。
会うたびに思いを形に表すように沙耶香を求めた。
沙耶香の戸惑いと気持ちを確かめながら優しく、時に我が儘に。
そんな覚士を沙耶香は受け止めきれずに喧嘩をすることもあった。

その日もそんな雰囲気の会話をした後だった。
「私だって仕事してるんだもん。会社の方と遅くなることもあるし、覚士さんの誕生日も大切だよ。だから仕事終わったら家へ行くって言ってるでしょ」
「もういいよ、来なくて」
「そんな言い方しなくたっていいでしょ。覚士さん最近怒ってばかり。沙耶香のことどう思ってるのかわからない」
ほんのささいな言葉から始まった喧嘩だったはずが、お互い引くに引けずにエスカレートしてしまった。
気丈に話してはいた沙耶香だったが、ふと涙が込み上げてきた。
「帰る」
涙が覚士の前でこぼれないうちに沙耶香は席を立ち、店を出て行った。
覚士もすぐに店を出たかったが、冷めてしまったコーヒーをゆっくり飲み終えてから席を立った。

作品名:緑の季節【第三部】 作家名:甜茶