緑の季節【第三部】
その日出勤すると、連休の過ごし方の話をするのが耳に入って来たが、覚士は加わる気にはならなかった。
この頃の休暇は、暦どおりに休みを取る人と有給休暇を利用して長期休暇を取る人とに分かれた。
覚士も後者にするはずだったが、有給休暇を取り下げに総務部へ寄ってきたところだった。
「真壁さんは、休みはどうするの?」
「仕事仕事。戻って間がない僕には仕事が一番ってね」
「まあ、そんなに熱血してたっけ。じゃあ、お土産待っててね」
そんな女子の冷やかしに少し苦笑いをしたが、すぐに忘れるほどに仕事に没頭した。
一日を終え、家に戻ると昨日のことは何もなかったように沙耶香とのメールでの時間を楽しんだ。
顔や声を見せなくていいメールでのやりとりは、気持ちが楽だった。
きっと会えば、今の本心(きもち)はすぐに現れてしまうに違いない。
もしかすると、相手もそういう時があるのだろうか。
沙耶香からの返信はハートや音符などの絵文字が多く使われているように思った。
《・・・じゃあね》
いつだって会いに行ける。
気持ちはお互い通じ合っていると信じていたはずだっだ。
それなのに近くに住むようになってから、少しずつ遠く感じられるのは、そんな自信が
会わなくても大丈夫だと感じさせ、気持ちを求め合わなくなってしまったのか。
それとも、このまま、何となく付き合っているだけに終わってしまうのではないか。
そんなことはない。
思い過ごし。
疲れているわけでもなく、眠さもまだ浅いうちにベッドに横たわるとき覚士は、ぼんやり考えるようになった。