緑の季節【第三部】
冷蔵庫に冷えていた缶ビールをいつもより多く飲んだ覚士は久し振りに酔った。
寒いと感じるほどの季節ではもうなかったが、ふと目覚めた覚士は、リビングの床でクッションに凭れ眠っていたことに気付いた。
半身起き上がり、手近にあったジャケットを肩に掛けると腕を組んだまま、家具に凭れ
再び眠った。
明け方、飲んだ分の生理現象に目を覚ました覚士は、自分がどうしてこんな状態で眠ってしまったのか、徐々にはっきりしていく意識の中考えた。
今までも心が穏やかでいられないことなどたくさんあったし、飲みすぎることもあった。
だけど、昨日は・・・。
そう、沙耶香に電話をして、都合が悪いと言われただけのこと。
どうしてこんなに腹がたったのか。いや、腹がたっているわけではない。
悲しかったのか。いや、そういう感情とも違う。
何らかのもどかしさ。
この曖昧な感情が今の覚士に圧し掛かっているものかもしれない。
一晩とはいえ、体を伸ばして眠らなかったせいか、体に痛みを感じながらも、いつもの出勤前の朝を迎えていた。
「さてと、出かけるか」
床に広がった観光ガイド誌を拾い上げるとクッションの上へと放り投げた。
覚士は、そのまま玄関を出て行った。
クッションから滑り落ちてページが開いたガイド誌には『ドッグイヤー』の印があった。