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緑の季節【第三部】

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両手に飲み物を注いだグラスを持ってキッチンから出てきた覚士は、カウンターにそれを置くと、沙耶香の頭を撫でた。
「大丈夫。ここでは(里実と)一緒に暮らしてない。荷物も無いんだ。あっちで見た写真も今は奥の部屋の隅にある。気になっていたんだろ?」
「・・うん」
「言ったり、聞いたりしないとね。お互いが遠慮してたら、分かり合えるのも遅くなる。言葉で伝えられないことは・・・」
覚士は、柔らかな唇に触れた。
「あっ私ね・・」
沙耶香は、緊張と照れを隠すかのように仕事や身近な話題を話し始めた。
覚士は頷きながら黙ってそれを眺めていた。
氷がグラスの中で崩れる音をたてた。
「そろそろ、送っていくよ。はじめから遅くなるとこれから外出させてもらえなくなるといけないし、ご両親に嫌われてしまうのは困るからね」
覚士は、部屋の施錠をすると「はい、これ」と、沙耶香の掌に鍵を手渡した。
「いいの?沙耶香、泥棒に入っちゃうよ」
「もう、大事なものを盗まれた」
「あれ?どっかで見たよ、そういう話」
「そうだっけ?」
駐車場まで来ると 覚士は車のドアを開け沙耶香を乗せた。
「ドア閉めるよ」
「はい」
覚士も車に乗り込むとエンジンを掛けた。
「覚士さんって、誰にでもそうなの?」
「えっ、何?」
「いつも、ドアを開けて待ってくれるでしょ。誰にでもそうなのかなって」
「そうかな?意識したことがなかったし、車に人を乗せることもほとんどないしね」
小首を傾げながら、答えた。
「やっぱり・・奥・・。いいな、そんなふうに大切にしてもらって。沙耶香も覚士さんのこと大切にしよっと」
「嫌な気持ちになったならごめん」
「えー、どうして謝るの?素敵なことだと思う。普通、照れくさいとか面倒とか言ってしないものでしょ」
「ほら、出発するぞ。シートベルトして」
沙耶香の額を指で弾いた。
「はーい。お願いします」
覚士は、シートベルトを締める沙耶香を待って車を走らせた。

作品名:緑の季節【第三部】 作家名:甜茶