緑の季節【第三部】
4月になり、沙耶香は就職先の入社式の画像をメールで送ってきた。
髪をまとめ、化粧をした沙耶香は少し大人っぽくみえた。
その後も研修や歓迎会などで緊張や気も使っているらしく、メールには、疲れた表情の絵文字が並んでいることもあった。
覚士の会社でも数人の入社があり、その世話を担当することを任され、忙しく過ごしていた。
ふたりが、時間を合わせることができたのは、4月も半ばを過ぎ、桜の木にも新緑の葉が見え始めた頃だった。
待ち合わせ場所に先に着いたのは沙耶香だった。
淡い桜色の薄手のコートを羽織った沙耶香を見つけた覚士は、徐々に近づくその姿をゆっくり楽しみながら歩いて行った。
少し手前で沙耶香が気づいたが、歩調を変えることなく沙耶香の元まで進んだ。
「どなたかとお待ち合わせですか?」
少し悪戯っぽいその口調に沙耶香の口もとが緩んだ。
「お待たせ。車で迎えに行かなくて良かったの?」
「はい。『デートしてきまーす』って出かけてみたかったから。だから今日はごめんなさい。」
「沙耶香が、それでいいのなら。久し振りだね」
「京都にいる時は、会いたくてもずっと我慢してたもん。今は、会いたい時に会える。
会えなくてもメールできるし、声が聞ける」
沙耶香の笑顔が春の陽に照らされて明るさを増しているように覚士には見えた。