緑の季節【第三部】
マンションに戻った覚士は、心地よい日差しのせいか、緊張のせいか、いつの間にか
うたた寝をしていた。
その夜、両親に電話で報告をした。
沙耶香から 覚士が帰った後の話や出会いのいきさつや怪我をした時のことなどを話して小言を言われた事など、いつもよりも長めのメールが届いた。
覚士も返信をした。
翌朝、覚士は『さんぽみち』へ出かけた。
「おはようございます。コーヒーをお願いします」
ママが、コーヒーとモーニングセットをテーブルに運んで来たときに 話を切り出した。
「あの、沙耶香さんとのこと、昨日ご両親にお会いして来ました」
「そう、昨夜(ゆうべ)沙耶香からメールもらったわ」
「もうご存知でしたか」
「大事にしてね、かわいい姪っ子なんだから。さあ召し上がって」
「あっ、はい。いただきます」
ママは、優しい笑顔で微笑むと 訪れる来客の用意に忙しそうに動いていた。
やがて、店内も満席になってきたため、覚士は店を出ることにした。
「ごちそうさま。また来ます」
「はい、ありがとうございました」
駐車場を出て少し走った頃、街路樹の桜にちらほらと花が咲き始めていた。
また、新しい春が訪れた。