緑の季節【第三部】
沙耶香の家は、住宅地の一角にあった。
道路事情もあるのだろう、空き地横の道に車を止めるよう教えてもらった場所へ駐車すると、手土産を持って沙耶香の家のインターフォンを鳴らした。
玄関の扉が開き、沙耶香が階段を下りて来て門扉を開けてくれた。
「いらっしゃい。どうぞ」
沙耶香について玄関にはいると、沙耶香の母親が出迎えていた。
「あ、真壁です」
「とりあえず、上がってください。どうぞ」
「お邪魔します」
玄関の上がりに揃えて置かれたスリッパは、覚士を迎え入れるために用意されていた。
通されたリビングのソファーには沙耶香の父親が座ってテレビを見ていた。
「こんにちは、真壁です。今日は、お時間を取って頂きありがとうございます」
「沙耶香の父です。まあこちらへ」
テレビのスイッチを切ると、彼は座り直した。
覚士は、持ってきた洋菓子を沙耶香に渡すと沙耶香は母親に渡した。
「お気遣い頂いてすみません。どうぞ。」と勧められるままに覚士もソファーへと座った。
覚士の横に腰掛けようとした沙耶香を父親は自分の横に来るよう招いた。
沙耶香が、ソファーに掛けるのを待って、話し始めた。
「はじめまして。真壁覚士と言います。沙耶香さんとは半年ほど前に出会いまして、京都の方でお付き合いをさせていただいていました。仕事の都合で春先にこちらに戻りました。沙耶香さんとこれからもずっと一緒に居たいと思いましたので、ご挨拶に伺いました」
覚士の言葉が妙に可笑しく、沙耶香はクスッと笑った。
沙耶香の父親は、少し黙って天井辺りを眺めていた。