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盗んだ顔

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 彼は圧倒的な徒労感と脱力感に襲われた。由奈と小松に別れを告げた彼は風見の家に行き、風見から奪った鍵で玄関のドアを開けた。家の中は真っ暗で、黴臭い。壁のスイッチを押しても暗いままだ。元を切ってあるのだと気付いて手探りで探したが、配電盤がどこにあるのかが判らない。ライターの炎で蝋燭を探した。埃だらけの仏壇を発見した。その中の燭台に蝋燭があった。それに点火して探すと、洗面所の壁の上のほうに配電盤があった。
 照明がつくと蜘蛛の巣だらけだが、家の中は整頓されていることがわかった。彩芽とその母が几帳面だったのである。幾つか押入れを開けると、掃除機があった。須藤は掃除を始めた。
 長い一箇月が過ぎた。風見達也の叔父とその妻が訪れた。二階の窓から顔を出した須藤は、自分は風邪で寝込んでいるので、改めてこちらからご挨拶に伺いますと云って窓を閉めた。その直後、テレビをつけた彼は唖然とした。
画面に泣き顔が写し出されているのは、須藤の両親だった。サハラ砂漠で須藤の白骨化した死体が発見されたというのである。砂の中に遺体と共に埋められていたのは、須藤隆一の免許証やパスポートのほか、旅行荷物などだった。財布には現金がなかったので、強盗に襲われて殺害されたのだろう、というコメントだった。
作品名:盗んだ顔 作家名:マナーモード