盗んだ顔
振り向いた須藤を見た由奈は叫ぶように云った。
「ああ、このひとが噂の風見さんか。はじめまして。小松です」
「ばかやろう……あっ!失礼。人違いでした。ごめんなさい。風見です。よろしく」
須藤は萎縮しながら席に就いた。由奈は躊躇なく小松の隣に座った。
「風見さんは由奈のモトカレでしたね。留守中に横取りしたみたいで、恐縮です」
「えっ!?鈴木さんは、今は小松と付き合ってるんですか?……」
「いきなり小松って呼び捨て?……あっ!鈴木さんって呼ばれたの、すっごい久し振り。武はいつも由奈と呼ぶし、ほかのみんなは由奈ちゃん、とか呼ぶもんね」
以前より随分蓮葉な印象の由奈に、須藤は幻滅した。
「風見さんがいくらモトカレでも、やっぱ、いきなし俺を呼び捨てって、やばいっすよ」
「そうですね。海外ではみんな呼び捨てなんで、失礼しました」
「そうねぇ、そうなのよ。風見さんは一年間海外だったのよね。あっ」
「由奈さん。何ですか?」
「須藤さんっていう人が、わたしを鈴木さんって呼んでたような気がするのよ。あの人行方不明になって……ごめんなさい。風見さんの妹さんの彩芽ちゃんも、行方不明なのよね。風見さんは、彩芽ちゃんを探すために海外を旅してたのよね。違いますか?」