小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

恋冷ましの花

INDEX|9ページ/12ページ|

次のページ前のページ
 


 宿の女将が語った『恋冷ましの花』の伝説、それはこんな恨み節で終わっていた。
 そして優也と夏帆は、胸が切なくなるこんな悲話を聞いてしまった。
 夜ともなり、どうも寝付きが悪い。寝返りを何回も打ち、悶々とした一夜を過ごす。
 そして、夜が白々と明けた。
 二人はもうこうなればということで、眠ることを諦め、早めに床から抜け出した。そして朝の散歩代わりに、怨念の滝へと出掛けた。

 盆が過ぎたとはいえ、時節はまだ夏。したがって、気温はまだそこそこ暑いはず。
 しかし、そこにはひんやりとした霊気が漂っている。その上に湿りがあり、薄暗くて陰気。なぜかぞっとするくらい肌寒い。
 そんな陰鬱(いんうつ)さを破るように、滝が十メートルの落差で落ち、轟々(ごうごう)とその響きを轟かせている。
 そしてその滝壺はどこまでも深く、濃い青さで波打っている。

 こんな滝壺の底深くへと、夕月は夫・作蔵の亡骸を抱きかかえながら身を投げ、そして沈んで行った。その無念さが、深遠な滝壺から白い水煙と共に舞い上がってきている。
 そして、今にもその手が……、水面下から、にょっきりと現れてきそうだ。

「優也、なんとなく怖いわ。やっぱり怨念の滝なのよ、夕月の恨み辛みを感じるわ」
「ああ、本当だね」
 朝早く歩いてきた二人。何かに威圧されてのことなのか、こんな会話しかできない。そして、今、怨念の滝を前にして、二人はその神秘の凄さに絶句し、茫然と突っ立っている。

 時折吹く朝の風が滝の靄(もや)をしばし晴らす。そんな時に、滝の奥の崖まで見通せる。
 目を懲らせば、可憐な白い花が群生している。
 そして、それらは恐怖とも言える雰囲気を和らげてくれる。

「優也見て、あそこの白い花……、綺麗だわ」
 夏帆が水しぶきの向こうに見え隠れする、花の一群を指さす。
「あれらが恋冷ましの花だよ。あの根っ子を煎じて飲むと、恋の熱が冷めてしまうんだよね、きっと」
「そうなのね」
 夏帆は深く頷いた。


作品名:恋冷ましの花 作家名:鮎風 遊