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恋冷ましの花

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 二人はこの世のものとは思えない情景に圧倒されている。しかし、はっと気付く。
 よく見渡してみると、暗くて青い怨念の滝に沿う恋冷ましの花、それらが二人の足下まで咲き及んできているのだ。
 夏帆は近くの花を、なんとはなしに一輪摘む。そして優也から離れて行き、滝壺にそれを放り投げる。
「夕月は、あの辺りに飛び込んだのでしょうね。まだお骨は作蔵と一緒に、滝壺の底に眠っているかもよ」
 夏帆は呟き、手を合わせる。

 それを見ていた優也、夏帆のそばへと。そして滝壺に手を合わせ、そっと目を瞑(つむ)る。
 このちょっとした夏帆と優也の時間差に、夏帆はもといた場所へと戻る。
 優也はまだ夏帆を背にして拝んでいるようだ。

 夏帆はそれを確認し、それからまさに瞬間のことだった。夏帆はそっと屈み、手が素早く動く。
 足下に咲いている恋冷ましの花。その根っ子を、根本からごそっと引き抜いた。
 そして合掌する優也に気付かれないように、手際よくバッグの中へと仕舞い込んでしまったのだ。

 優也は、しばらくの祈りの後、静に目を開ける。すると白い花々に囲まれ、青々とした滝が目に飛び込んでくる。優也は美しいと心底思った。
「夕月さん、ずっと寂しかったんだね。だけど、もう辛抱することはないよ。現世に戻ってきて、好きなように生き直してみたら、いいんじゃないのかなあ」
 優也は穏やかに、そんな誘いの言葉で夕月に語りかけた。

 それから一拍おいて、夏帆の方へと振り返る。すると、まだ手を合わせている。
「夏帆、もういいだろう、しっかり拝んだのだから……、もう帰ろうか?」
 優也は、きっと衝撃を受けたであろう夏帆に優しく声をかけた。夏帆はその声で気を取り戻したかのように、はしゃぐように返す。
「そうしましょ、だけどこの場所、結構刺激的で面白かったわ。収穫ありよ」
 夏帆は少し奇妙なことを言いながら、優也の腕にぶら下がってきた。

「収穫って?」
 訝る優也に、夏帆はさらりと返した。「二人の恋心よ」と。
 これは、作蔵と夕月のようにならないように、と夏帆が決意を新たにした。そう解釈した優也、急に夏帆が愛しくなり、ぐっと抱き寄せた。
 そして優也は夏帆の肌の温もりを感じながら、二人仲良く、来た道を帰って行ったのだった。


作品名:恋冷ましの花 作家名:鮎風 遊