緑の季節【第二部】
帰り道、『*****』に立ち寄り、モーニングセットを注文した。
その味は、変わらず覚士の舌を穏やかにした。
いつしか里実の作ってくれたサンドイッチの味との違いも忘れ、このサンドイッチが
「お袋の味」のような大切な味覚になっているかのようだ。
ママは先ほどまで客がいた隣席の片付けをしながら声をかけてきた。
「失礼かしら、お名前お聞きしても宜しいですか」
「真壁といいます」
「真壁さんね。真壁さんは、奥様亡くされてどれくらいなの?」
「7年です」
「そうー。いいわね、奥様だった方。こんなに大事に思って貰ってて」
「ママだってご主人のことをずっと思ってるでしょ。寂しいですね」
ママは目を大きく見開いて大げさに微笑んだ。
「寂しくなんてないわよ。そりゃその当時は、私も若かったからずーっと泣いてたり、
落ち込んだり、このまま私も・・なんてね思いもしたけど。ここを前にしてた人、
ああ、母親なんですけどね、旦那亡くした後も何も言わず毎日頑張っていたの。
父のこと『いつまでも少年のままみたいな人』って言っていたけど、今となっては病気なのか事故なのか理由はわからないまま、『ツーリング行ったまま長い旅ね』としか言わなくてね。私が連れ合い亡くした時も『似たもの同士ね』ってだけ」
「そうなんですか・・」