緑の季節【第二部】
「でもね、母見ていたら、自分はこの人にこんなに健康に大事に育ててもらったって思ってね、その母がいる間は弱音吐けないなって何とかやってきたの。その母も今はツチの下。
で、この場所にあったもの一掃して建て直したのがこのお店。私には子どもがないから
誰かのために頑張るってわけじゃないけど、皆さんから元気いただいて自分も皆さんに
元気分けられたらって思うわ。だからこれからもごひいきに」
「あれ、さりげなく売り込んでますよ」
「そう?・・真壁さんいくつ?30過ぎ位かな。ずっと一人なんてお勧めしないわよ」
「え」
ママは手にしていた台布巾を何度も折り返しながら はにかんだ表情で語り続けた。
「私も恋したり、再婚すれば良かったかなって今は思ったりするわ。やっぱり恋したり
愛されたりって、食事や睡眠と同じように大切よ。健康で生きているんですもの。奥様を忘れることはないのよ。でもね、貴方を産み、育(はぐく)み、愛してくれた両親(おや)に
貰った命と体、そして心、最期の日まで生き生きさせなくっちゃね」
覚士は、ママが乙女心を見せたことを可愛く感じた。
「ママなら、まだこれからだって」
「そう?真壁さんが言うなら頑張ってみようかな。あら嫌だ、変な宗教の説教みたいね。お詫びにおかわりサービスするわ」
そういうと、ママは氷の解けてしまったアイスコーヒーのグラスを入れ替えた。
覚士には、そう語ったママが確かに年齢よりも若く感じた。
「ご馳走さま」
覚士は、ゆったりと涼しい空間から夏の日差しの中へ出た。
(暑っー)
自動車に乗り込むとエンジンを掛けるやいなや窓を全開して顔を歪めた。
『さんぽみち』
改めてその店の看板を目にした覚士は、駐車場から車道へと走り出た。