緑の季節【第二部】
「今日は何をしていたの?」
「友達がお祝いしよって、ケーキのバイキングのお店へ行ったの。プチケーキだけど10個くらい食べたから、真壁さんがもし用意してくれたらギブアップだったかな」
「うん、甘い香りがする」
「えー、うそ。分かるの?」
覚士は、体を離し自分のシートに戻した。
「あ、現実的な話になってしまうけど、君の卒業の日までこちらに居られないみたいだ。沙耶ちゃんは、もうあちらへ戻る日は決めたの?」
「まだはっきりはしてないけど、一応両親が来てアパートの手続きとかをして帰ることになってる」
「そうか、今度会う時は、あちら、『さんぽみち』でかな。あっ、ママは知ってるの?僕たちのこと」
「はっきりは言ってないけど、会ったことは話した」
「ははは、怒られるかな。信用なくなちゃうね」
沙耶香は、体を起こすと、覚士の頬に唇をつけて目を閉じた。
「これで会えないの我慢できるかな。覚士さんの香り」
「悪いな。仕事帰りの匂いで」
「やだー、せっかく雰囲気に浸っていたのに。でも好き」
「沙耶香のこと、好きだよ」
ふと横を向き、顔を突き出していた沙耶香にキスをすると、エンジンをかけた。
「さて、明日も仕事だ。あともう少し頑張らないとね。送っていくよ」
「はい」
沙耶香は倒れたシートを戻し、座り直した。
走り出した車の中、ずっと手を握り合いながら帰った。
沙耶香をアパートの前に送ると覚士は夜の道を帰って行った。
マンションに戻った頃には日付も替わろうかとしていた。
覚士は、着替えるとそのままベッドに潜りこんだ。
冷えている布団が温まるまで覚士の脳裏にさっきの出来事が思い浮かんだが、体がぬくもりを感じる頃には、眠りに引き込まれていた。