緑の季節【第二部】
沙耶香の誕生日前日、覚士は仕事帰りにプレゼントを買うためにある店に立ち寄った。
その包みを明日、沙耶香に渡すようにと車内のダッシュボードに入れた。
《明日ですが、仕事が終わってからになります。予約は何時までですか?》送信
《午後11時55分》
《了解。仕事が終わり次第、そちらへ走ります。メールします》送信
《気をつけて。お待ちしています。追伸:早く会いたい》
翌日、覚士は、朝から何となく時計を気にすることが多かった。
「どうされたんですか?今日の真壁さんいつもと違う」と事務所の女性に聞かれたほど、覚士の気持ちは高揚していた。
まるで少年が初恋を抱いたような、学生時代に初めてデートに誘ったような、そんな忘れかけた感情が込み上げてくる胸の苦しさがたまらなかった。
終業を迎える頃、上司から送別会の日程の都合を尋ねられた。
(今日、今じゃなくてもいいだろ)とは言えぬまま、上司の話に足止めをされている間も、壁の時計が気になった。
そんな時だった。
「課長、主役にあれこれ段取り聞いても困ってますよ。私たちが決めますからそろそろ解放してあげてくださいよ」
里山が立ち入ってくれたのだ。
「あー、悪かった。急いでたのか?言ってくれればいいのに。はいお疲れさん」
覚士は、里山に両手を合わせるような仕草をして事務所を出た。
社の駐車場から出ると迷わず、沙耶香の家へと向かう道をひた走った。
いつもなら車の流れも疎らになる頃なのだが、夕暮れの町は家路を急ぐ車の列ができていた。
どれくらいで着くのだろう、逸(はや)る気持ちをラジオのおしゃべりで紛らわしながら向かった。