緑の季節【第二部】
翌朝、覚士が布団から抜け出してきた頃には、沙耶香はきちんと身支度を済ませ、覚士の頬にキスをすると帰って行った。
昨日よりも穏やかで暖かい日の差し込む日曜の昼下がり。
『沙耶香』
《今、部屋に帰りました。覚士さんの髭がチクチクしたよ》
覚士は顎や頬を触りながら携帯電話を手に持ったまま、なんとメールを打とうか迷っていた。
何度も指は文字を打ってはみるもののクリアしてなかなか文章にはならなかった。
迷ったあげくにひと言送った。
《好きだよ》送信
『沙耶香』
《嬉しい!初めて言ってくれた》
返信を見て覚士自身もあらためて気づいた言葉だった。
好意を持ったことを伝えるのに短くも気持ちのままのこの言葉を大切に感じたのは、この時が初めてだった。
(里実と出会った時には何も考えず言っていたのかな。それなのに沙耶ちゃんにはすごく意識してるなんて、歳のせいかな。ははは)
《君の誕生日に予約入れていいですか?僕とのデート》送信
《はい。御一人様ご予約承りました》
沙耶香からの返信があった。