緑の季節【第二部】
マンションに戻った覚士は、沙耶香にこの事を伝えるかどうか迷っていた。
(今夜はやめておこう)
覚士は、あの日のメール以来、沙耶香から連絡があるまでそっとしていようと思っていた。
ふと、カレンダーを見ると、今月は沙耶香の誕生日があった。
(それまでに連絡はあるだろうか?その頃までには伝えた方がいいのだろうか?)
そんな事を考えつつも翌日にはまた仕事に追われていた。
「真壁さん、今いいですか」
そう声を掛けてきたのは、同じ事務所内の男性社員であった。
場所を移し、話を聞くとどうやら覚士の作業を引き継ぐらしいことがわかった。
事務所でも比較的年齢が近く、仕事ぶりも良く、何より気さくに話せる彼が適任と思っていた覚士にとってはありがたい後任者だった。
「これは、仕事とは別ですが・・」
「何ですか?」
「彼女、里山さんとはどうなんですか?」
どうやら彼は里山とのことが一番気になっていたのかも知れなかった。
「何もありませんでしたし、彼女にもきちんと僕の気持ちを伝えました。お付き合いはできませんと。僕が言うのは可笑しいですが彼女はいい方ですから仲良くしてあげてください。もう告白は・・」
「今、返事待ちですよ。心配で、真壁さんにこんなこと聞いてしまいました。すみません」
「いい返事がくるといいですね。では仕事の方は、追々まとめておきますから、宜しくお願いします」
覚士の退社の話は、その週の間には知れ渡ったようで、普段はあまり話をしない人が話しかけてきたり、早々と別れの挨拶をされることもあった。