緑の季節【第二部】
翌朝は、久し振りの出勤。
クリーニングから戻ったままのスーツのタグを外し、パリッとした香りがする上着に袖を通すと心持ち身が引き締まる思いだ。
朝の空気の冷たさが改めて体に厳しかった。
出向先の業務も今日はほとんどなく、元会社への報告と新年の挨拶メールが仕事であったほどで退社時刻も定時には皆が帰って行った。
日常に戻った日々も早いもので半月ほど過ぎた頃、元会社からのメールに待ち侘びた事項があった。
《真壁さん、一年近くご苦労様でした。こちらへお戻りの日が決まったようです。正式な辞令は書面にて後日送付致しますが少し早くお伝え致しました。本当はまだ内緒みたいですので、できれば削除してくださいね。水上》
(そうなんだ)
《了解》送信
覚士は、気持ちを抑えてメールを削除した。
それから十日(とうか)ほどして出向先の役員から呼び出しがあり、正式な文書とともに辞令を受けた。
その人の落胆された様子に ここ数日心を弾ませていた覚士の気持ちも陰った。
「当初からわかっていたとはいえ、このまま真壁さんにはこの職場に残って頂けたらと思いますよ」
「そのように言って頂けて嬉しく思います。私も不安もありましたが、皆様のおかげで順調に業務を遂行することができ、良い形であちらにも戻ることができます。ありがとうございました」
「それでですが、社内の発表はもう少し間際でもいいでしょうかね」
「はい。私としてもそうしていただけたらと思います。引き継ぐ事に関しては徐々にしていくつもりですので。最後の日まで宜しくお願い致します」
事務所に戻った覚士は、普段と変わらぬ態度で業務を進めた。
《本日、辞令を頂きました。同じ職場になりましたら宜しく》送信
《こちらこそ。ではその日まで報告をお受け致します。水上》
その日は少し残業をして帰った。