緑の季節【第二部】
三日後、会社は年末の休みに入った。
とくに大掃除をすることもなく、テレビを見ても年末の慌しさを映しているが、身近には思えなかった。
少し早めだったが、洗車と僅かな食料の買い物に出かけた。
「あっ、おふくろ。この正月はそちらへ帰らないけどいいかな?まあおやじとふたりゆっくりしてよ。年始の挨拶はするからさ」
思い返せば、こういう年末年始の過ごし方はここ何年かしていなかった。
大掃除まではしなくとも部屋を片付けたり、里美の墓参りや里美の実家への挨拶をしていた。
「しまった」
覚士はマンションを出るとコンビニで年賀はがきを購入して戻ってきた。
十数枚とはいえ、忘れてはいけない方への年賀の挨拶状を書き始めた。
最後になってしまった里美の両親への年賀状を書き終えた時には、辺りは暗くなりかけていた。
翌日、専用ポストへ投函した。
帰り道、少し回り道をして帰ることにした。
一年とはいえ、過ごした町並みを離れるのは、なんとなく心寂しく感じた。
住み始めた頃は間違えて迷った道も、突然犬に吼えられた家も、雨が降ると大きな水溜りができる路地も もうすっかり記憶の中に入っている。
自分のことを知っている人はできなくても 自分が知ったことは少なくない。
あんなに忘れられなかった里美のことですら、ふと頭を離れることもあったほどこの町は覚士に新しい何かを与えた。