緑の季節【第二部】
部屋は、クリスマスに関係なく、殺風景な男の部屋だった。
だがそんな空間が今夜の覚士には落ち着いた。
冷蔵庫から発泡酒の缶を取り出し一気に飲み干したが、体が冷えてしまった。
覚士はバスタブに湯を張りながら熱めのシャワーを浴びた。
体を沈めるには良い量まで湯を溜めるとシャワーを止め、ゆったりと浸かった。
いつしか目を閉じると、さきほどのことが思い浮かんだ。
後悔のような迷いは感じなかった。
そのまま少し眠ってしまったらしく、手で撥ねた水が顔にかかり目が覚めた。
湯もぬるく感じるほどに冷めてしまっていたが、ゆっくり浸かっていたからか、さほど寒さは感じなかった。
風呂から上がり、携帯電話でメールをした。
《今夜はごちそうさま。おやすみなさい》送信
その日のうちには沙耶香からの返信はなかった。
翌朝、リビングに起きてきた覚士は、携帯電話にメール着信があることに気づいた。
沙耶香からだった。
《ありがとう》
タイトルもない、5文字だけのメールだった。
クリスマスとはいえ、盆や正月のように会社は休業などしない。
覚士はいつも通りの準備を整えるといつも通りに出勤した。
自動車のキーに沙耶香からのストラップが揺れていた。
持ち歩くにも邪魔にならない大きさのそれは、『付けてね』という思いで考えられていたのだろうか。
仕事もさほど押し迫る事柄もなく、休憩時間には事務の女性が小さなケーキを用意して
クリスマス気分を少し味わった。
(そういえば、ケーキぐらい用意しとくんだったかな・・いまさらだけど)
「あら、真壁さん思い出し笑い?」
隣に座る女性に突っ込まれたが、楽しい時間だったことに改めて気がついた。
その帰りは、立ち寄ることもなく、まっすぐ帰宅した。