緑の季節【第二部】
それから何を話すというわけでもなく、ふたりはしばらく車中で過ごした。
「ごめん。退屈かな」
「ううん。嫌じゃない」
「ああ・・えっと」
「このままでいい」
覚士は、ラジオをつけた。
クリスマス特集なのか、曲はそういったものばかりだ。
沙耶香は3曲目の途中でラジオのスイッチを切った。
「どうした?」
「ドライブしたい。駅まででいいから」
「帰るってこと?」
沙耶香は頷いた。
「家の近くまで送るよ」
そう言って車のエンジンをかけた。
「今日は駅がいいの」
覚士は待ち合わせをした駅に向かって車を走らせた。
「本当にここでいいの?」
沙耶香は、覚士と目を合わさないようにするかのようにドアに手を掛けた。
「ありがとう。じゃあね」
「沙耶ちゃん」
覚士は、躊躇(ためら)う気持ちよりも先に沙耶香の腕を掴んでいた。
そのまま覚士は沙耶香を席に引き戻すと唇を重ねた。
ふたりはずっと前から恋人だったように長いキスをした。
駅前の灯りが車に注いでいたが通る人影は疎らで気にするものはなかった。
沈黙の中に閉ざしていた思いを伝えなければと覚士は話し始めた。
「沙耶ちゃん、僕は結婚もしていたし、歳も君より十以上も離れてる。少しも君の彼氏候補にはなれるとは思わないけれど、沙耶香ちゃんと過ごす時間は楽しいし、傍にいると可愛いと思うんだ。一人の男として見てくれるかな」
じっと聞いていた沙耶香も静かに話した。
「沙耶香は・・。沙耶香ももっと一緒にいたい。でもちゃんと考えてみます。真壁さん、おやすみなさい」
沙耶香は、後部座席の荷物を取ると車を降りて行った。
沙耶香の後ろ姿が見えなくなってふと空を見上げた。
静かな夜空から白く舞い落ちる雪片はフロントガラスに触れるとすぐに水滴に形を変えた。
(勢いで言っちゃったけど、これでよかったのかな)
覚士は、そのまま車を走らせ、家路についた。