緑の季節【第二部】
季節は、北風も吹く頃になっていた。
仕事も終わりかけた頃、事務所の女性たちが声をかけてきた。
「今日は寒いですね。私たち鍋でも食べようかと思っているのですが、真壁さんも行きませんか?あの辺りの男子(だんし)も行くんですけど」
予定もとくにあるわけではない。覚士は仕事後、みんなと行動をともにした。
街は、寒い外に居ても店内の暖かさが伝わってくるような美味しい香りが漂っていた。
「ここです」
今秋にでも開店したような新しいきれいな店だった。
前もって予約がされていたらしく、店員は人数の確認もそこそこに座敷へと案内した。
もう先に2、3人到着していた。
覚士たちの後にも来たようで9人ほどでその食事は始まった。
「では、かんぱーい」
「えー何に乾杯?」
「えっと・・とにかくお疲れ様でした。かんぱーい」
事務所では、資料やパソコンと向き合い、話すことといえばお小言を言っているその女性の乾杯のおんどは、逆に場を和ませた。
意識して席に着いたわけではなかったが、覚士と里山の席は両端となってしまった。
会話もはずみ、鍋もぐつぐつ湯気と香りを立ち上らせて食べる口の方も活発に動いている。
覚士の隣に座った女性が、小声で話しかけてきた。
「あれからどうなったんですか?サトちゃんあまり言ってくれないから。別に報告はなくてもいいことですけど」
「んんん、なんとも。というかその後個人的に話す機会もなくてそのまま」
「そのまま」少し大きく声が出そうになった彼女は自ら口を押さえるようなしぐさをした。
「そのままって、サトちゃん可哀想でしょ。『いい』ならいい。『ごめんなさい』ならそう言ってあげないと。というかそうしてあげて、彼女止まったままだから。で、駄目なの?サトちゃんじゃあ」
覚士は無言で了解したことをわかるよう2度大きく頷いた。
それからも食事と会話ははずんだが、覚士はどこかうわの空で言葉が耳を透り抜けているようだった。
「じゃあそろそろ。ということで、ではまた週明け元気に頑張りましょう」
店を出てそれぞれあとの予定や言葉を交わしていたが、自動車を会社に残してきた覚士は、交通機関で帰るよう駅へと向かった。