小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

緑の季節【第二部】

INDEX|61ページ/88ページ|

次のページ前のページ
 


翌朝、どちらからともなく「おはよう」と挨拶を交わし朝食を食べた。
沙耶香は、ふたり分の使った食器を洗ったり、部屋で使ったものを片付けたりしているうちに、時間が過ぎていった。
昼も近くなってきたが、お互いに昼食はいらないということで予定よりも早くマンションを出ることにした。
「荷物、来たときよりも重くなってないか?」
「えー。・・・じゃあ思い出分かな」
ふたりは、車に乗ると沙耶香の暮らす町へと向かった。

車内にはラジオからのおしゃべりやリクエストでかけられた曲が流れていたが、ふたりが話すことはなかった。
同じ空間に居る、それだけでお互いに落ち着いた時間を過ごしているようだった。
沙耶香は住まいの付近に着いた頃、覚士に話しかけた。
「真壁さん」
「うん、なに」
「私、来年あちらへ帰ることにします。こちらからで決まるかどうかわからないけど、あちらで仕事探すつもり」
「そうか。まあ親御さんや『さんぽみち』のママは安心するかな。怪我しても病気しても離れていると様子がわからない分心配は増えるからね」
「どうかな?でも真壁さんが居てくれて、沙耶香は不安じゃなかった気がします。ありがとうございました」
「そう。良かった」
車は沙耶香の住まいの前に着いた。
「お疲れ」
覚士は、トランクから荷物を出すと部屋の入り口まで持っていった。
部屋の鍵を開けて沙耶香は、部屋へと覚士を招いたが、覚士は荷物を中に入れるとそのまま部屋を出た。
沙耶香は小首を傾げて覚士を見た。
「いや、このまま帰るよ。じゃあ、元気でね」
覚士は、沙耶香の言葉も待たぬまま、背を向けてそこから立ち去った。
車に乗ってしばらく走ってやっと少し落ち着いた覚士は、ラジオのスイッチを入れた。
それでも覚士の耳にはラジオからの曲も話もたいして届いていないようだった。

作品名:緑の季節【第二部】 作家名:甜茶