緑の季節【第二部】
途中、景観が美しい場所で車を止めては携帯電話のカメラで景色を写す沙耶香。
そんな場所で、食べたおにぎりとダシのきいた卵焼きはとても美味しかった。
楽しい会話のふとした瞬間、沙耶香の話も聞こえてないかのように覚士の思考はほかへと移っていた。
「・・ねえ、聞いてます?・・でしょ」
「あ、ああ、なんだっけ」
「ひどーい」
沙耶香は少しふくれた表情で覚士を見たが、和やかな雰囲気に変わりはなかった。
〜同じ車内の助手席で、笑ったり、はしゃいだり、同じものを見て感動したり、同じものを食べたり、ありきたりの友人との付き合いの中にもそういうことはあること。穏やかに優しい気持ちでいられる空間。手を伸ばしたら触れられるのに、もしそれによってこの空気が壊れ、拒否されたとしたら・・。それとも思うがままの行為にあとくされなく終結するか。どちらにせよ。この子と過ごす時間や環境は これからあるとは思えない。〜
「真、壁さん、大丈夫?疲れちゃった?」
「いや。もう秋だね」
「うん、秋だね」
ふたりはしばらく話すことを止めて窓の外の景色を見ながら過ごした。
市街地へと向かう道は、混んでいるようで進んだり停滞したりしているうちに辺りは日が暮れ始めた。
「・・楽しかったよ。嬉しかった。ありがとうございました」
沙耶香は、言葉のなかった空間に言った。
覚士は、沙耶香に視線を向けたが、微笑む程度に頷いた。
沙耶香も微笑むと、また前方へと視線を返した。