緑の季節【第二部】
覚士が家に戻ると、沙耶香はクッションに凭れてうたた寝をしていた。
病院へ行ったらしく、包帯が白くすっきりしている。
なるべく起こさないようにと静かに歩いているときに限って、物音がするもので、覚士の携帯電話が鳴った。
その音に目覚めた沙耶香は、「おかえりなさい」と微笑んだ。
「ごめん、起こしちゃったね。ただいま」
理由(わけ)のない安らぎを感じた。
今日の話をする沙耶香に相槌を打ちながら時間が過ぎていった。
お互いにあくびがひとつふたつ出るようになったので、それぞれの部屋へと分かれた。
翌朝、さわやかな秋晴れの空に誘われて、ドライブに行くことにした。
沙耶香は、炊きたてのご飯で手のひらを真っ赤にしながら、あり合わせの具材を入れて
おにぎりを握った。
残り少ない海苔を貼り付けた程度のほとんど白い塩むすびのようなものだった。
おかずは、卵焼き。
ふたりは自動車に乗り込むと「どこか行きたいところある?」と覚士は尋ねたが、沙耶香からのこれといった答えはなかった。
「じゃあ僕の好みで」
覚士は、沙耶香がお弁当を作っている間に『ドライブ』サイトにアクセスして下調べをしていたところに 自動車を走らせた。
思うように歩きまわることのできない沙耶香と過ごすには最適と考えた計画を覚士の中で少し期待していた。
車は市街地から北へと抜け、紅葉に彩をかえつつある山やいつまでも美しい緑を保つ杉山を眺めながら整備された道路をひた走った。