緑の季節【第二部】
翌日も覚士はいつもどおりに出勤して行った。
沙耶香は、ひとり病院へ診察に出かけた。
ずいぶん、症状は緩和されてきていた。
擦りむいた傷もかさぶたになり、腫れの痛みも感じなくなってきた。
(このまま、帰ろうかな・・)
病院の前のバス停でバスを待ちながら覚士のことを意識し始めている自分を抑えるようにぼんやり考えていた沙耶香は心に淡い痛みを感じていた。
「乗りますか?」
停まったバスの運転手の声に沙耶香はそのバスに乗った。
行き先は、覚士のマンションへの最寄り駅。
部屋に戻ると、気持ちを悟られないように普段通りにつとめ、覚士の帰りを待った。
沙耶香の携帯電話に覚士からのメールが届いた。
《今日は、少し遅くなりますから食事など僕の事は気にせず過ごしてください》
「はいはい。わかってるもん」
沙耶香はやや不機嫌そうに携帯電話を閉じた。
ふと、棚の奥に置かれたあった写真立てが目に止まった。
(この人が里実さん・・私とそんなに変わらないのに死んじゃったんだ)
沙耶香は写真立てを少しだけ斜めに向けた。
「ごめんなさい。ここに居る2日だけ見ないでいて・・」