緑の季節【第二部】
マンションに着くと、覚士は荷物を持って部屋へと帰った。
「何が入ってるのか、思ったより重いねえ」
「女の子の必須アイテム。ごめんなさい」
どこか沙耶香の笑顔に誤魔化されているような、そんな気さえしながらも覚士は少し楽しんでいた。
「ただいまー。お邪魔します。お世話になります」と、沙耶香。
さっそく荷物を開けていた沙耶香は「シャワー借りていいですか?」と遠慮がちに聞いた。
「どうぞ。あっでも足濡らさないようにしないとね」
沙耶香は、シャワーキャップを足にはめ、足首をゴムで留めて浴室へと入って行った。
シャワーを使う水音に覚士は、とくに見る当てもないテレビのスイッチを入れた。
(焦るくらいならこんなことしなけりゃいいのに)
ふっと息をつきながら思った。
カチャ・・
沙耶香がリビングに現れた。
大きなバックプリントの入ったクリーム色のスエットにピンク色のタオルを首に掛け、
まだ濡れ髪がきらきらしていた。
さほど化粧が濃いわけではなかったが、やはり化粧をしていない顔は少し幼く、その頬の紅潮がまた違う化粧のようにも見えた。
「ありがとうございました」
「さっぱりできた?髪、乾かさないと風邪引くよ。洗面所のドライヤー使っていいから」
沙耶香は、洗面所に戻り、髪を乾かして戻ってきた。
いざ、ふたりで過ごすことになると、会話も少なくなり、空気の音が聞こえそうな空間だった。
「今夜は、僕は奥で寝ることにしたから、ここで好きな時に休んでくれればいいからね。
おやすみ」
「あっはい。おやすみなさい」
覚士は、隣の部屋へと入って行った。